束沸石


上の写真は束沸石(たばふっせき)stilbite
結晶の長さ 2.4 cm。b 軸側から撮影しました。
前回見つけた場所の収穫です。
http://d.hatena.ne.jp/doublet/20050827
出勤前に採集して、あわてて仕事に行きました。ほとんどビョーキですね。
束沸石の名前は、この沸石が b 軸方向に少しずつ結晶方位をずらした結晶を形成し、リボン(蝶ネクタイ)のような束状の結晶に見えるところからきています。


参考のため、別産地のやや束になっているものの a 軸方向からの写真もお見せします(いま初めて気づきましたが、タバタバした典型的な蝶ネクタイ型の束沸石の標本を持っていませんでした!)。一番下のものは4月に採集した heulandite の隙間にくっついていた小さなものです。


今回の収穫は束になってない四角柱状の結晶で、ガマの内側に寝るようにはえていたので、端面はいずれの側にもあります。
この沸石の端面はぎざついてしまうものが多く、これもやはりざらついています。
(010) 面に非常にはっきりしたへき開があり、キラキラするので塊だと heulandite との区別が付けづらいですが、一番上の写真では見事に表現できていません。


一枚目の写真の根元に見える小さな結晶は輝沸石 heulandite
三枚目の写真の脇にあるのもそうです。
両者は成分も結晶構造も極めて類似しており、違うのはゼオライトケージのゆがみとカチオンの位置のずれ、水分子の量(束沸石の方が一分子多い)ぐらいです。
ですので、この二種は相性がよく、多くの産地で一緒に産します。


鉱物蒐集では、この束沸石というのはどこにでもあるような沸石で、あまり顧みられることはありませんが、化学的にはかなり面白い挙動を示します。
最も興味深いのはイオン交換能ですが、束沸石はアンモニウムイオンをはじめとするやや大きめのカチオンをかなり強く捕集交換します。ラングミュア表面は 500 m2/g もあるらしいです。だから猫のトイレの砂には、クリノプチロル沸石-束沸石-輝沸石系がよく用いられます。温泉水の作用を受けている沸石産地で束沸石を見つけたら、カリウムアンモニウムイオンが含まれている可能性もあります。窒素定量すると面白いかもしれませんね。
有機分子の吸着能は分子の形状や官能基によって大きく左右され、これを利用してオレフィン類の異性化触媒に使うことがあります。1-ブテンからイソブテンへの異性化触媒に heulandite-stilbite 系を使うこともあります。
束沸石が束になる理由は、結晶の格子のゆらぎで、一つの理由としては Al-Si のサイトディスオーダー、もう一つは MO4 正四面体の配列が成長中にゆらいで、斜方-単斜 (mmm-2/m)の相変化が起こるためとされています。この辺は対カチオンと Al-Si のモル比に大きく依存してきます。このため、天然束沸石のX線結晶構造解析はほとんどの場合 R が下がりません。反射がたわんでいるのと、カチオンサイトのディスオーダーからです。