マルチプライヤー


上の写真は電子増倍管 (electron multiplier)。
古いものを分析機器から外しました。
イオンや電子流を検出して、増幅する部分です。
どういう仕組みかというと、右の入り口から電子が入ると、ベリリウム銅でできた最初の板に当たり、5個ぐらいの電子になります。電位差のある次の電極方向に電子が5個飛び出し、次の電極では5個がそれぞれ5個の電子を叩き出し、25個ぐらいに増えます。
これを繰り返すと、非常にわずかな電子やイオンをものすごく増幅することができます

この管は16段ありますので、それぞれで5倍に増えるとしたら 516 に増幅されることになります。
なお、光を検出する場合は、最初の一段目だけ材質が違います。
光が当たると電子を叩き出す材料にするのです。
この場合は、光電子増倍管 (photoelectron multiplier) 、通称フォトマルと呼ばれます。
光を測る人にとっては、無くてはならない真空管です。


いずれの場合にせよ、製作はかなりノウハウがいるため、メーカーの数は少なく、値段はやや高めです。この管は10万円ちょっとします。
世界で最も性能の良い管を作っているのが、有名な「浜松ホトニクス」です。
神岡鉱山の地下深くにニュートリノの検出装置があり、やはり微細な光をとらえる特殊なフォトマルが必要となり、この会社の職人さんが一つ一つガス吹きで作りました。
実験結果は小柴さんの名前とともに有名になりましたね。


日本という国は、これをはじめ、作ることが難しいものをかなり器用に作れるのです。
これから理工系を勉強しようと考えている若い方は、このことについて、誇りを持っていいと思います。