原発がどんなものか知ってほしい

http://genpatsu_shinsai.at.infoseek.co.jp/hirai/pageall.html


この文章、数年前からウェブに上げられているらしいのです。
今日、初めてこれを読んでびっくりしました。
この文章を書いている人がどこの炉でどのくらい経験を積んだのか不明なんですが、現場で働く作業者だとしても認識がおかしすぎます。
この知識ではプラント設計は不可能です。下請けの配管工だとしても、試験・検査方法を知らないというのはありえません。
素人が、又聞きの噂をかき集めて煽っている文章にしか読めません。申し訳ないんですけど。
ただ、微妙に現場の人らしい話も混ざっているのが解せないんですよね。パッチワークなのかな?


まず、ソースもなければデータも欠けているので、客観性が皆無。
客観性がなければ科学技術の説明は不可能でしょう。
認識不足、誤認もすごく多いです。類推も多すぎます。感情論だけなんですよね。
挙げたらきりがないです。
きっとよほど被曝が怖かったのでしょう。その気持ちはわからなくもないのですが。
しかし、「線量」という物理量、あるいは「放射能」という用語も理解していないのに「原発がどんなものか知ってほしい」という文を書くのは荷が重過ぎます。
煽りが目的だとしたら、思い込みから来る感情論に流れるのは当然なのですが、それはちっとも「原発がどんなものか」を説明してはいないのです。
私は炉で働いたことがありませんので、私の知らない世界のことも多くて、記述が本当か嘘か勘違いなのかわかりかねる部分も少なくないのですが、知っている部分から外挿して、この文章の内容の大部分の信憑性はひどく疑わしいものです。


そして、この文章の記述を信じてしまう人が少なからずいるというのにも、びっくりしました。
核分裂および放射線の基礎知識、発電炉の原理などは一度に理解するのは難しいでしょうが、これは間違いなく日本の電気エネルギーを支えている科学技術なのですから、ブラックボックスにせずに、誰でも理解を深めて欲しいです。
そういう話は受けが悪いのか、テレビでもほとんど放送されません。
専門書を調べて勉強する一般人は少ないでしょう。
気力があればインターネットから正しい情報を拾い出すことも出来ますが、インターネットは明らかにおかしい情報も含んでいます。
だからこそ、この悪文を盲目的に受け入れる人が出てしまうのでしょう。
この問題の根は「水からの伝言」と同じなのかもしれません。


放射線はもちろんどこにいても受ける、身近な電磁波および粒子線です。
ある値以上の線量の放射線は、生物にとって大きなダメージを与えます。強ければ致死に達します。
放射線の怖さは、誰よりも技術者がよく知っています。
例えば、柏崎刈羽クラスの炉がチェルノブイリクラスの暴走を起こしたら*1、多量にばら撒かれる放射性同位元素のために、東日本はほとんど人が住めなくなるでしょう。
どうやってその確率を限りなく0に近づけるシステムを構築するかが、科学者および技術者の仕事です。
最初から完成された技術なんて存在しません。でも、万が一の最悪の失敗を受け入れることは絶対に出来ないのです。
私のイメージでは、商業的な発電炉は、「経済の原理に則って、暴れ馬を押さえつけて農耕馬にする」というものです。
できたらそんな暴れ馬は使いたくないのです。誰でも*2
放射線を使う技術は施設費がかかり、ヒューマンエラーを極限まで減らすために規則が厳しくて、めんどくさくて。
そうしなければならないほど世界のエネルギー情勢は不安定で、核分裂エネルギーを利用する以外の発電方法はコスト高(いろいろな意味で)だということです。


(追記)あとで探してみたら、こんな記述がありました。
http://user33.at.infoseek.co.jp/
技術屋さんですねこの人。

*1:チェルノブイリの事故は黒鉛炉という特殊な炉の性質が引き起こしたものであり、軽水炉にはあのような重大な事故は起こりません

*2:儲け話でもあるので、やはりここに神の見えざる手が働くのはもちろんなのですが。