身の回りに存在する危ないもの

食品の安全に関するニュースが世の中を賑わせておりますが、一つ言わせてください。


摂取する食品などに、生理活性を示す物質が予期せず含まれていた場合、


1. 食品に含まれるとされる物質にどの程度の生理活性(毒性)があるのか。量と中毒症状(半数致死量や中毒量)の相関に関するデータは知られているのか。
2. 件の食品にどのくらいの量が含まれるのか。最大摂取された場合、1の情報から推測してどの程度の中毒が起こるのか。


を普通は考えますよね。
それを考えずに「○○があれに入ってたらしいよ、危ないから食べるなよ」ってのはちょっとヘンです。
食品に含まれる成分が全て無害なものだと思っているのですか?


分析化学には「元素普存則」という考え方があります。
検体には、量の差こそあれ全ての元素が含まれているというものです。
ただし、分析装置の検出限界には限りがあるため、問題にならない量であれば相手にしなくてもよいのです。
みんながいくらクロムや砒素が嫌いだからといっても、濃縮してきっちり調べればどんな食品からも必ず出てきますよ*1
「お前の昨日喰ったハンバーグにはクロムも砒素も含まれているぞ!濃度が低いだけでね。」と言い切れるのが元素普存則です。
大事なのは種類とその量です。
二元論で「含まれる」「含まれない」で分類することが、いかに意味がないことか。


有機化合物に関しては「分子普存則」が成り立つわけではありませんけど、標的分子よりもっと毒性の高い物質がそれなりの量で含まれているってのはよくあることです。
それを無視して、極めてわずかにしか含まれていない毒性の高い物質について問題にするのはいかがなものかと。
食塩の半数致死量 LD50 は 5-10g/kg だそうです。危ないですね。


たとえば、炭は食品という見地からはかなり要注意です。縮合多環の芳香族入りまくり。
化学種と濃度の正確な情報が各検体ごとにわからないのではっきりしたことは言えませんが、それなりに発ガン性の高い物質をそれなりの濃度で含んでいます。
たまに炭を食品に故意に混入させている人がいるんですが、私はあまりこれには同意できません。
熱分解でできた縮合多環芳香族って、極低濃度でもプロモーターにもイニシエーターにもなるものがけっこうあります。分析も簡単ではありませんし、まだ充分に毒性調査されていないものも多いでしょう。
せいぜい濾材使用程度に留めておいたほうがよいです。
「タバコは毒だ!」なんて言っておられる方は、もちろん炭なんて決して食べることはありませんよね。本末転倒ですもの。


tikutan
↑こういうの。無機成分はケイ酸を多く含みますが、繊維は炭化してるでしょ。

*1:ステンレス製品が身の回りにあったら、クロムとニッケルは必ず混じってきます。ちょっとステンレス製金属製品で引っかけば、ppm の単位で鉄、クロム、ニッケルが出るんです。この間それで懲りました。