聖母マリアの光ファイバー

この間、とあるお店で引き取ってきた売れ残りの繊維石膏の塊が出てきました。
下から LED で照らそうかな、と思っていたのですが、適当な出来合いで安価なLED 照明が見つからず、放置してました。


石膏(gypsum, せっこう)は硫酸カルシウム2水和物のことで、天然物は結晶集合状態に応じていろいろな名称があります。
学名の gypsum はギリシャ語の「月」から来ています。
光を透過し、淡い月の光を連想させるからでしょう。


gypsum1


単結晶や、非常に粒の粗い透明な結晶は透石膏(selenite)と呼ばれます。
この間のメキシコ、ナイカ鉱山のばかでかいのはこれですね。
完全なへき開があり、大きな結晶は雲母のように板状に剥がすことができるので、「聖母マリアのガラス」と呼ばれ、古くは窓材に使ったそうです。
爪で傷つくほどやわらかいので、すぐ傷だらけになっちゃうような気もするんですが。
ちなみにオランダ語やドイツ語で gips です。骨接ぎのギプスはここから来てます。
医学も鉱物学も化学も、日本にはドイツもしくはオランダからやって来た名残の一つかな。


細かい結晶が不定方向に多数集合したものは雪花石膏(alabaster)と呼ばれます。
単結晶ほどではありませんが、これも薄くスライスすると、光をおぼろげに通します。
この光は最も上品な光だって、誰かどこかで書いてました。


ある軸方向に卓越して成長した結晶の寄せ集まりが繊維石膏(satin spar)です。
日本ではたぶんこれが一番ポピュラーなんじゃないでしょうか。
東北の黒鉱鉱山に行くと、いっぱい転がっているのを見ます。
これが転がっていると、青白い粘土で土壌がグチャグチャなことが多く、靴が汚れて難儀します。
おそらく成長方向に伸びているのでしょうね。
この独特の光沢は、連続した結晶方向には光が散乱されることなく透過し、それの垂直方向では結晶の粒界で光が散乱することによります。
光ファイバーの束みたいなものですが、光ファイバーは繊維に屈折率勾配が付けてあって、さらに手が込んでいます。


gypsum2


聖母マリアが光学情報伝達技術を開発する場合、繊維石膏を使うことでしょう。
熱がかかると白濁するからダメかな?