コバルトブルーの注射器
ついこの間、私がガキだったころ、注射器および注射針は使い捨てではありませんでした。
さすがに使用毎に交換し滅菌していましたが。
私よりはるか上の世代は、一つの針で連続して数人打ってたようです。
ちょっと今からは考えられないですよね。
私の伯父さんが産婦人科医で、この間鬼籍に入られましたが*1、生前にいろいろ教えてもらいました。
あんなこととかこんなこととか、ね。産婦人科ですもん。
結局伯父は肝炎由来で亡くなりました。医者の職業病です。
どんなに気を付けても、針先を指に刺しちゃうんでしょうね。私もたまに刺しますが。
自分の寿命を縮めて、地域医療に尽くした人でした。
伯父の病院では看護婦さんが注射器を煮沸消毒し、時に注射針を目の細かい砥石で研いでいたようです。
そこで研ぎのノウハウを教えてもらったわけではありませんが、実は私は未だに注射針を研いでます。
すればわかるんですが、実は意外と厄介です。針先研ぎ。
針にしなりがあるので、適当に研いでると平面でなく、刃先が曲がってしまいます。
これはどの刃物研ぎにも共通するんですが、刃先をきっちり押さえて砥石に押し当て、針の場合は引きます。
研いでる間に角度を一定にするのが、針はすごく難しくて。しかも押さえる場所が小さすぎるのよ。
で、研ぐとバリが出ますんで、カエシを取り、針穴に細いワイヤーを入れて、針穴のバリも取ります。
だから、昔の注射針の針先は、フラットベベルだったはずです。
ものすごく器用な人なら、ランセットポイントが研げるでしょう。
ブラックジャックの馮二斉なら、もしかすると研げる、か?
化学実験ではしばしばシリンジの針が沈殿物や固体で詰まり、にっちもサッチモいかなくなります。
初期なら簡単に抜けますが、固まってしまうと難しいです。
非ディスポ輸血用針などは、新品の状態では中に細いワイヤー(マンドリン線)が入っていました。これで詰まりを抜きます。
私は、エレキギターの弦(ヤマハのスーパーライトゲージ、.009 から始まるヤツ)を一セット実験室に置いてあり、これで詰まりを抜いています。
どうしても詰まりが取れなければ、途中でペンチで切ります。
そのまま切ると針穴が潰れますから、ギターの弦を入れられるだけ入れて、詰まっているところのすぐ手前で、弦ごと斜めに切り、これをオイルストーンで研いで、刃先を作っています。
シリンジ針の汚れはコンタミの原因になったり、不安定ものが死にますので、たまにきれいにした方がいいです。
ワウンド弦のゴリゴリで落とすのよ。
刺さりの悪くなった針先も、たまに研いでます。
学生さんは知らずに使っています。
親の心子知らずって、このことよね。
注射器も、よほど特殊なものでない限り今は医療の現場ではみんな使い捨てだと思います。
浣腸器はでかいし高いので、何度も使っているでしょうか。
0.5ml、1ml のシリンジに「ツベルクリンシリンジ」というのがあり、私も予防接種で打たれました。
真っ青なコバルトガラスの棒プランジャーの、細長いシリンジです。
非常にこのプランジャーが折れやすく、ちょっと落としたり曲げたりすると「パチン」と割れてしまいます。
ツベルクリンシリンジはプランジャーと組んでますので、ブランジャーを割ってしまうと本体も使えません。
こういうのを「共摺り」と言います。
自分にきっちり合う相手は、世の中に一人しかいないのです。
日本の医療の現場でガラスのツベルクリンシリンジを使うことは今はもうなく、みんなプラスチックのディスポシリンジでしょうが、あの青い青いコバルトブルーは、自分の中の懐かしいものを思い出させてくれます。