ハスやサトイモの葉が水をはじくわけ

昨日、ハスやサトイモの葉っぱの上の水滴がコロコロでかわいいよって書きました。
あれ、はじくようにヤツラの工夫がしてあります。単純に表面がツルツルだからはじくんだよってものではありません。
葉が、水や汚れを瞬時にはじき落とせる機能を獲得すれば、光合成効率が上がりますからね。
太陽光発電のガラス窓をいつも清浄に保つのが望ましいのと同じです。


ハスはウチのそばにはなかったので、サトイモを例にとります。


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こんな感じで、サトイモの葉はびっくりするほど水をよくはじきます。
水をはじく性質を撥水性(はっすいせい)というのですが、サトイモやハスの葉は超撥水性を持ちます。
表面がツヤ消しっぽい光沢ですよね。これがヒント。


撥水性の指標として、「接触角」というパラメータがあります。
液体を固体表面に落とすと、表面張力で盛り上がった丸い玉になります。
このときの液滴の接線と、基盤のなす角度を「接触角」といい、ヤングの式という経験式で記述することができます。

この接触角が0°に近いのが「完全に濡れている状態」であり、180°に近いのが「完全にはじいている状態」です。
より定性的には「濡れ性」と言います。
清浄な表面では、この接触角は物質固有の値を持ち、90°より小さければ親水性表面、大きければ疎水性表面と分類されます。


葉っぱの秘密は、葉の表面構造にあります。
サトイモの葉の拡大はこんな感じ。写真幅 1mm 弱です。
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非常に細かい、球状の透明な細胞がびっしりと表面を覆っています。
これが、サトイモの葉が水をはじくしかけです。
先ほど、接触角は物質固有であると書きましたが、それは固体表面が平滑なときの話で、固体表面に微細な組織があると(見かけ上)その関係が成り立たなくなります。
葉の表面にツブツブがあると、水滴とはピンポイントで接触し、空気層を多く含んで、巨視的な接触角がとても大きくなるのです。微視的にはヤングの式は成り立っていますが。
つまり、細かく凸凹している表面の方が、ツルツルの表面より濡れづらいのです。
これを、ハス効果ロータス効果、lotus effect)といいます。いや、マジです。


ハス効果はいろいろなところで応用されています。
一番おなじみなのは調理器具で、ご飯のこびりつかないシャモジがありますよね。あれがそう。
ハス効果をうまく利用して、ポリプロピレンの表面にエンボス加工を作り、ご飯をくっつけないようにしています。
あのぐらいの凸凹サイズなら、プレスの金型でできます。
最近のテフロンのフライパンもそう。ザラザラしてますよね。
もともとテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)は撥水性の極端に高い材料ですが、これにさらにエンボス加工を足し、汚れを寄せ付けなくしています。
ポリフルオロカーボンの撥水性は驚くべきもので、電子レンジの内部塗装ですとか、防水スプレーとか、かなり多くのところに使用され、「濡れると困る」用途に対応しています。
こういう表面の性質を変える操作を、表面改質と言いますが、濡れ性の低い分子と表面の間に接着剤の役目をする分子を挟み込んで、うまくくっつけることが多いです。こういうのをカップリング剤と言います。
逆に、用途によってはビチョビチョの濡れ濡れにさせる場合もあるんですよ。


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もう一つ面白いのがあり、サトイモの葉やバラの花びらに付いている小さな水滴は球状でコロコロしているにもかかわらず、実はかなりピッタリと吸い付いていて、ひっくり返しても落っこちないことがあります。
これは「花弁効果」と呼ぶのですが、これは写真で撮るのがかなり難しいので紹介だけにとどめておきます。
ハス効果と同様、平滑でない固体表面と、液体と、気体の界面の織りなすマジックです。


そんなこんなで、生物ってのは、よく調べると面白い工夫が多く隠されています。
「なんでだろ?不思議だな」と思い、よくよく観察し、調べてみるのが大事。
この知見をうまく応用すれば、いろいろ役に立つものができたり、自然に対する理解がずっと深くなります。
「なんでだろ?」と思うことを忘れないで。


(メモ)1枚目 Micro Nikkor 105mmF4。ツブツブの写真が Luminar II 16mm。最後のは Luminar II 25mm。
透明で小さな玉が乗っているのって、そう簡単に撮影できないのがわかりました。
ライティングは奥が深いです。
最後のは小さな水滴を細胞上に乗せ、前から後ろまでビシッと深度合成したかったのですが、地獄のように難しく敗退。
ぽわりと印象写真のようにボカして、お茶を濁して逃げます。