眼鏡拭きの秘密

まずは写真から。これ、なんの布だかわかりますか?
toraysee
これ、眼鏡拭きの織布の代表製品、東レ「トレシー」の拡大写真です。倍率10倍。横幅3ミリぐらいです。
もっのすごく繊維が細いの。オリジナル解像度でなければ繊維が見えないくらい。
オリジナル解像度↓
http://www.flickr.com/photos/fluor_doublet/3807776500/sizes/o/
通常のナイロン織布は、このくらい粗いです(同倍率)。
nylon


トレシーは異常に細い繊維より編まれています。その太さは平均 2μmだそうです。
1000分の2ミリメートル。髪の毛の太さが平均 80μmっていいますから、その 1/40 だと言えば、太さの想像が付くでしょうか。
織布の繊維径が細ければ細いほど、油汚れの拭き取り能力が増します。毛細管現象というヤツです。
しかし、こんな細い繊維は、現在の技術でも単繊維は紡糸することはできませんし、ましてや編むことなんてとてもとても。
こんな細い単繊維、あっという間に切れてしまいます。
編むにはこの太さが5倍ぐらい無いと強度的に無理です。
細くしたいけど、編めない。この問題を一番柔軟なアイデアで最初に解決したのが、東レでした。


答え
まず、金太郎飴作るときみたいに、多くの繊維の集合を別の材料で包み、それを引っ張って細く伸ばして(延伸)紡糸します。

こういう、マトリックスの中に別の組織が埋まっているのを海島構造っていいます。海の中に島が浮いている状態ですね。
この紡糸後の状態で 25μm径です。これなら織布可能。引っ張り強度は単繊維の100倍ぐらいあります。
ちなみに、金太郎飴も、延伸する前は直径35cmもあるらしいわよ奥様!


これで織布し、周りの「海」に相当する部分の材料を溶剤で溶かしてしまえばいいのです。


たねあかしをすれば簡単なことなんですが、高分子材料の特性、紡糸および織布の技術を知らないと、思いつかないアイデアであります。
すごいよね、東レ。別に東レのまわしもんじゃないけど。後輩は一人東レにいるなあ*1
東レのこの技術のすぐ後に、帝人は別のアイデアでやはり極微細繊維の紡糸と織布に関する特許を取っています。


これだけ手間のかかっている眼鏡拭きが、数百円で買えるって、けっこうすごいことですよ。


こういうものすごく細かくてテクニカルなものづくりは、日本人の最も得意とするところです。
人件費のお安い国でこういうアイデアがポンポン出てくるかっていうと、それは疑問よね。
日本の技術力、もう一度見直してみませんか?


(メモ)撮影レンズは二枚とも日本光学ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 を F2.8 に絞ってます。
上は8枚、下は4枚積み。このカリカリ感はこのレンズが一番得意とするものです。
このレンズも知る人ぞ知るスゲー技術のレンズなんですが、それについては Akiyan さんのサイトに Go!

*1:キャンプ(この間流されてしまった駒の湯)に行った後に水晶を掘らせたら、興奮しすぎて鼻血を出した学生さん。この日記に出てきます。)