暗闇の導火線

パキスタンの石油を含んだ水晶のインクルージョン部分です。
hydrocarbon_in_quartz
最初に出てきたときは、7年ぐらい前でしょうか。
パキスタンの業者が池袋のショーで「ウイスキー色の水の入ったハーキマータイプの水晶だぜ。いるかい?」って持ってきました。
私は「水じゃないだろこれ、粘度がもっと低いぜ。石油じゃね?」ってすかさずツッコミを入れました。
そのときは業者も、中のインクルージョンが何か知らなかったのです。
中の泡の動きで、慣れると粘性が高いか低いかざっとわかります。
水って、他の溶剤、特に汎用有機溶媒なんかに比べてすごく粘性が高くて、見ただけで水かどうかわかるのです*1
しかも水も一緒に入っているので分離してるし、一発よね。
で、「可視領域まで励起スペクトルの裾がのびている蛍光性の物質がとけてるなあ、えらく蛍光の量子収率が高いのが」ってのはわかります。
色からするとベンゼン環が数枚。ビフェニルかフルオレンかアントラセンか、って感じの。
えらく高いこといわれた(2cmぐらいの水晶で3000円とかふっかけられた)のですが、ヘンテコな水晶という誘惑に負けて連れて帰ってきたものです。


やっぱり炭化水素が入っているようで、二層に分離してます。
上の写真を、長波 (366nm) 紫外線での蛍光写真を撮ると
hydrocarbon_in_quartz2
こんな感じになります。


泡の形が微妙に上と違って丸みを帯びているのがわかります。


要するに、水晶の中に空隙(負晶といいます)があって、この中に水と炭化水素が入っていて、水の中に炭化水素が油滴になって浮いているということです。
一緒に入っている丸っこいのは気泡、黒いのはタール状のインクルージョンで、これも有機物のようです。
たまに、白い針状結晶が有機相の方に沈んでいるのがあります。たぶんすごい珍しい有機鉱物だと思いますよ。
無機成分なら間違いなく水相側に沈んでますから。


この水晶の成因がどうもよくわかりません。
石油を多く含んだ堆積岩の中で、低温でできたものでしょうか。
ハーキマーもピッチを多く含むけど、これほど露骨に炭化水素は入りませんから。
で、地質屋さんはよく「均質化温度」って話をするんですが、どれほど温度をかけようと(超臨界にでもならない限り)水と油が均質化するとはとても思えず、もしかすると、母液はサラダドレッシングみたいに、水と油がミックスされた、白く濁った不均質なものだったのではないかと思うのです。
均一相だろうがなかろうが、育つ時は結晶は育ちますものね。


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*1:ものすごく慣れていると、とろりと流しただけでおよその cps 値がわかるツワモノが企業にはいっぱいいるのですが、私はそこまではとてもとても