蒼鉛いろ

ずっとずっと、「蒼鉛」の色について考えていました。
新鮮な破断面はほぼ銀色、わずかにピンクを帯びているのに、なぜ、「蒼い」鉛なんだろう、と。
bismuth
(↑やっぱ、蒼鉛の「色」っていうと、こんな感じのピンクっぽい銀色を想像しますよね。)


で、やっぱりこれはビスマスの酸化皮膜の色を形容したものじゃないだろうか、と思い至りました。
bismuth_3
ただ、酸化皮膜の色は黄色から青から緑から紫まで、みんなそろってるんですよね。
青だけ抽出して表現するのも変だよな、と思ったんですが、自分で融かすと、やっぱり青の干渉色の薄膜が残りやすいんです。
ははぁ、これが和名の由来か、と。


「蒼鉛」の名前は、いったい誰が当てたのでしょう?
ビスマスは硫化物を石炭とともに加熱還元するだけで単体までもっていけますから、存在自体は古く知られていたんだろうと思います。
宇田川榕菴の時代までさかのぼるのかも。
ちっとこれは文献を読まないとわからないなぁ。


和田版日本鉱物誌(明治37)には、すでに蒼鉛の名があります。本邦金石略誌までさかのぼらないとダメかな。こいつは国会図書館アーカイブがあるはず。


宇田川榕菴舎密開宗」(1837-1847) に以下のように記述あり
20100308101001

細末スレバ蒼色(灰黒色)ナリ


ビスマスはへき開が発達して脆く砕けやすく、粉にしたときの色が灰黒色なので、「蒼い」鉛という字を当てたのでしょう。
うわ、つまらねぇ。
「蒼」はくすんで生気のない灰色のことで、私のこの色に対するイメージにずれがあったようです。
ごめんなさい。
どうも命名はこの感じだと榕菴くさいですね。


つまり、やっぱり宮沢賢治の表現は正しくて、「蒼鉛いろ」は砕いたビスマスの色のように、灰黒色のことなんだな、という結論です。