吉村石

野田玉川鉱山で見出された新鉱物、吉村石です。
野田玉川鉱山は北三陸にある大きなマンガン鉱山で、吉村石、原田石、木下雲母などの新鉱物をいくつも産し、主に東大グループによって相次いで記載されました。
地質は堆積性の層状マンガン鉱床で、南側の花崗岩接触によって熱変成を受けています。チャートに挟まったレンズ状の鉱体が、膨縮を繰り返しながら、切れ切れながらも2km近く延長しています。
現在は、宝飾用のバラ輝石を細々と掘っています。この間見に行ってみたら、坑道をワインセラーとして使ってました。


吉村石はバリウムマンガンおよびチタンを主成分とするかなり複雑な組成の鉱物で、一方向に完全なへき開がある、褐色の雲母のような外見を示します。
命名は、日本のマンガン鉱床研究の大家、吉村豊文先生の名前から。
ケイ酸塩シート構造*1があり、これが一方向のへき開の原因のようです。
この標本は、吉村石を研究記載した東大収蔵のもので、多くの立派な標本が残されています。大きなものでは3cm近い結晶が埋没しているようなものも。
右側の白い長石に埋まっている、褐色の部分がそれです。
ピンクはバラ輝石。濃い灰緑はテフロ石でしょう。
yoshimura1
吉村石(Yoshimuraite) (Ba,Sr)2Mn2(Ti,Fe)Si2O7(S,P,Si)O4(OH,Cl)2, tric., P-1.
岩手県九戸郡野田村玉川 野田玉川鉱山 ミサゴ鉱床 -30 mL
東京大学総合研究博物館
幅 12 cm
Nikon Micro Nikkor 60mm F2.8G ED/Nikon D3


渡辺先生のラベル。
yoshimura3

Yoshimuraite bearing pegmatite (P) with rhodonite and K-feldspar
Misago ore body, Nida-Tamagawa Mine


これは別の標本の拡大撮影で、茶色い部分です。へき開のキラキラ感と褐色が見えるかと思います。色が出ないので撮りなおします。はい。
yoshimura2
吉村石(Yoshimuraite) (Ba,Sr)2Mn2(Ti,Fe)Si2O7(S,P,Si)O4(OH,Cl)2, tric., P-1.
岩手県九戸郡野田村玉川 野田玉川鉱山 ミサゴ鉱床 -30 mL
東京大学総合研究博物館
上下撮影範囲 4 cm
Nikon Micro Nikkor 60mm F2.8G ED/Nikon D3


これは別の標本のラベルなんですけど、「New Mineral?(新鉱物?)」と書かれた、渡辺先生のラベル。命名前のラベルですね。昭和29年。
yoshimura4


おそらくその後に加藤先生が該当標本に新しくラベル付けをした、吉村石のラベル。
yoshimura5

*1:A. M. McDonald, J. D. Grice, and G. Y. Chao, The Canadian Mineralogist, 38, 649-656 (2000).