アンチモン

融解固化させたアンチモン塊を割ったものです。
アンチモンは日本の古語ではシロメ(白目、白鑞)という名で呼ばれ、古くから愛媛などで盛んに鉱石を出鉱していました。明治時代は日本の特産物の一つでもありました。
山形県朝日町の白目山なども、北側の沢にアンチモン鉱石の鉱脈が露出しており、そこから名前を取ったものと考えられます。
ただ、滝ばっかりで難儀するんですよ。ここは。


単体としてのアンチモンは、銀白色の脆い半金属で、ハッキリしたへき開があり、割るとキラキラに輝いています。
Sb


こちらは酸化アンチモンメルトの中で金属アンチモンを溶かし、結晶化させたものです。
樹枝状の自形結晶の表面が見え、その角度から三方晶系だというのがおぼろげにわかります。
Sb3


融液を冷却して固化させるときに、体積膨張する特性から、かつては活字合金として多用され、印刷にはなくてはならない存在でした。
明治期のアンチモンの鋳物細工などは、アンティークショップなどで見かけることがあります
現在でもポリエステル重合の触媒など、チョビチョビと工業用原料に使われていますが、人体に対する若干の有害性があり、使用を控える方向に進んでいる感じですね。


地下資源としては、銅鉛亜鉛の鉱石の精錬でかなりの量が副生品として得られます。
アンチモンを含む鉱物は多くありますが、アンチモンを目的にする場合は、硫化アンチモンである輝安鉱を狙って掘ります。
明治時代、愛媛県の市ノ川鉱山で見事な結晶が多産し、世界に誇れる日本を代表する鉱物の一つでもありました。
stibnite
大きなものでは単結晶サイズが50cmを超え、強い光輝と豊かな面で人を魅了し、世界中の博物館に市ノ川鉱山の輝安鉱標本が置いてあります。
硫化アンチモンは低温生成の熱水鉱床にはしばしば見られ、金や砒素を伴うことが多いようです。
愛知県の津具金山、兵庫県の中瀬金山などでも立派な輝安鉱を産しました。


昔は栄光を讃えられたのにもかかわらず、今では嫌われ者の元素になってしまいましたね。