硫レニウム鉱

以前に話が出ました、硫レニウム鉱 (rheniite)です。
北方領土択捉島茂世路岳のもの。世界中探してもここにしかありません。発見記載は1992年。
単純なレニウムの二硫化物で、レニウムの形式価数は4価。
火山の非常に高温(900度以上)な噴気孔周りに昇華し、現在進行形で成長しているのだそうです。
択捉島を実効支配しているロシアは、数年前からこの噴気を施設に引き込んで、この鉱物を成長させているのだとか。
この標本も、ロシアルートでディーラーの手に渡り、国立科学博物館に入ったものです。
レニウムは融点が3100度近くある、酸化に強く硬度の高い金属ですから、ロケットのノズルなどの軍用利用のためにこの鉱物の捕集を計画しているのかな、と個人的には考えています。
通常はレニウムモリブデン鉱床、特に輝水鉛鉱(二硫化モリブデン)にわずかに混じってくるのを精錬時に回収して利用するのですが、これだけレニウムを含む鉱石は、世界中を探しても稀有なものです。理論値で74%のレニウムを含みます。薩摩硫黄岳の噴気孔でも、レニウムを比較的多く含む輝水鉛鉱が昇華していますが、それでも1%を超えることはありません。
やはり輝水鉛鉱と類似の、金属光沢の強い鋼灰色薄板状の集合体です。
輝水鉛鉱は六方晶系なんですが、こいつは三斜になるようです。
非常にナイーブな標本です。


rheniite
レニウム鉱(rheniite), ReS2, tric., P-1.
北海道根室支庁蘂取郡蘂取村択捉島)茂世路岳
国立科学博物館蔵.標本番号:NSM-F28732
撮影幅 : 7.0 mm


この鉱物の記載は、特異性のために Nature に記載論文が出ました。

Korzhinsky, M. A.; Tkachenko, S. I.; Shmulovich, K. I.; Taran, Y. A.; Steinberg, G. S. Discovery of a pure rhenium mineral at Kudriavy volcano. Nature (London, United Kingdom) (1994), 369(6475), 51-2.

日本の新鉱物の記載論文で Nature に載ったのは、門馬さんの千葉石とこの鉱物だけです。
択捉島の例の火山では、同時に多量のインジウムを産します。
インジウムスズ酸化物透明電極材料など、IT社会の必須元素の一つですよね。


いいかげんいつ返してくれるんですか、というのが本音です。