カルパチア石

有機化合物でも、地質的な作用によって生じ、結晶性の化合物なら鉱物種扱いされます。現在では、こういった有機鉱物が50種弱知られています。
最も多いのはシュウ酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩です。
ところが、たまに縮合多環の芳香族化合物のようなものが見つかります。現在では8種あります。
最も有名なのは下の写真の天然のコロネン、カルパチア石です。
レモン黄色の柱状の結晶です。
この標本はカリフォルニア、サンベニートの水銀鉱山で産したもの。記載はロシア、トランスカルパチアです。
トランスカルパチアのものは放射状の結晶集合体だったのですが、サンベニートのものはカルパチア石の表面に玉髄をかぶり、その上に米水晶が乗ってるのが違和感を覚えますね。だって、コロネンの融点は400度足らず、石英は1600度ありますから。
赤い粒は辰砂です。
karpatite1


コロネンというのはこんな分子です。
縮合多環の芳香族化合物で、ベンゼン環が7枚。
省略してある水素まで入れると、分子はコロナ状なんで、コロネンという名が付きました。
karpatite1
アダマンタンがダイアモンド構造の単位構造なら、コロネンはグラファイトおよびグラフェンの単位構造とみることができます。ベンゼン第2世代。


カルパチア石は高い蛍光の量子収率を持ち、紫外線照射でキレイな青色蛍光を示します。
上の写真とまったく同じアングルで、紫外線照射したもの。
karpatite2


はっきりした理由は不明なんですが、今まで産出したカルパチア石(カルパチア、サンベニートカムチャッカ)は、すべて水銀鉱山から出てきます。いずれも熱水脈です。
サンベニートのものは炭素同位体比から、堆積物由来の有機分子が中程度の地熱を受け、有機物が熱分解した末にできているらしいのです。しかしそんなところはいくらでもあります。
何で水銀鉱山にばかり出てくるのか、と。
どうも生成に水銀がからんでいるような感じがあります。
カニズムは未だよくわかりませんが、熱水条件で有機物が分解を受け、それが蒸気圧の差によって分画されながら、クラッキングのように枝分かれ部分が落ち、熱力学的に安定で酸化されづらい縮合多環の芳香族化合物ができます。
これが部分濃縮を受け、フェナントレンやコロネンのようなものだけが一部分に濃縮され、結晶化するようです。
熱のかかった炭化水素は水銀と相性がよく、トルエンなどでは 1000ppm 近い水銀を溶かし込むという報告があります。どうもここに水銀がからんでくるようですね。


日本だと、イトムカをはじめとする北海道の水銀鉱床に産する可能性が高いでしょう。


謎多き鉱物であります。