糸金トリオ

アゴラにいらっしゃったお客様が、「ウチに転がっている石で、ボロついているのがありますので、よろしければ差し上げます」とおっしゃってくださるのです。
で、綿に包まれた石を開けてみると・・・


Au_chichibu


いっ、糸金!!!糸金がいっぱい!!


しかもえらくいいヤツ!!!


ビビりましたよ。


埼玉県奥秩父秩父鉱山大黒坑通洞以下レベルで、だいたい1930−1960年代ぐらいの時期、金に富むスカルン鉱体に当たり、自然金がそれなりの量で産したことがありました。
この産状は他と比べてかなり特殊で、大きな結晶粒の閃亜鉛鉱の中に、細い線状の金が含まれていたのです。
これは、秩父鉱山の糸金(もしくは紐金)といい、日本の古典鉱物標本の代表格のような扱いを受けています。
発破を切羽にかけ、その後、石埃が落ち着くのを待って切羽に行くと、金は粘るので割れずに盤からいっぱいぶら下がっていたので、鉱夫が喜んで拾ったといいます。
もちろん、そんな金品位の高い部分は鉱山側としてはメチャクチャ欲しいのですが、どこでも鉱夫は自分の空弁当箱にいい鉱石を詰めて持ってきちゃうので、けっこう標本としては現存してます。


こんないいもの、貰っちゃっていいのかなー。


誠にありがとうございます。大事にします。


で、今までこんないい糸金を見たことがないので、マジマジと観察してみると・・・
Au_chichibu2


四角で、平板に近い棒状のものが多いのです。で、閃亜鉛鉱に埋まっているところを見ると、閃亜鉛鉱のへき開方向と糸の埋まっている向きが同じなんです。
ところが、糸金の表面組織を見ると、金の結晶面はまたそれとは別なんですね。でも単結晶っぽい組織です。


かいつまむと

  1. 糸金は閃亜鉛鉱と同時に成長している
  2. 糸金は閃亜鉛鉱のへき開方向に伸びている
  3. 糸金は単結晶質である
  4. しかし糸金は自形の結晶ではない


ようなんです。不思議ですねー。


ちなみに、東大博物館のバックヤードに収蔵してある糸金(昭和25年の産出物)がこちらです。
gold_and_sphalerite
今回の標本が、どれほどいいものか、わかっていただけるかと思います。
今回の標本は、ボロついているんじゃなく、発破で出てきたグズグズの糸金密集部を、鉱夫が一粒も取り残しの無いよう、丁寧にかき集めたものなのです。