フェロセン

有機金属化学ではおなじみの化合物、フェロセンです。
シクロペンタジエニドというマイナス電荷を帯びた芳香族炭素五員環2枚が鉄分子をサンドイッチした、鼓のような分子です。

結晶形は単斜晶系、空間群 P21/a です。一見三斜っぽく見えますね。
いわゆる「マッチ箱をつぶしたような」結晶になります。ちょこっと角が削げてますね。
熱ヘキサンからの結晶だと、ことごとく燕尾型の接触双晶(棒状)になりました。昇華ではペラペラの菱形の結晶の樹が生えます。
ferrocene
鉄のような遷移金属原子を含んだ化合物ですが、加熱すると179℃で簡単に融解し、蒸気圧が高いためにさかんに昇華します。
これは、分子の熱安定性が高く、分子間の相互作用が小さいことを意味します。


有機金属化学の初期傑作に近いこの分子は、偶然のカップリング反応の副生成物で生まれ、のちにその構造で世の化学者をあっと言わせました。
実は、この分子自体はあまりパッとした使い道はありません。凝った触媒の配位子に入ってきたりとか。
しかし、この分子などを先駆けとした有機金属化学は、その後多くの実りをもたらしました。


研究がデータを産み理論を構築し、この大樹の頂点に応用の華が咲きます。
基礎科学はそういう感じで、そのものズバリは役に立たずとも、そこから得られる知見がもっとも価値があります。
目先ばかりを追いかけると、何も得られなくなりますよ。