氾濫原

台風の大雨で鬼怒川が氾濫しました。鬼怒川流域全域に、ひどい大雨が降ったのです。
もともと鬼怒川は暴れる川ですが、水海道界隈で2ヵ所氾濫し、ひどい水害を引き起こしています。
これは国土地理院発表の第三報の浸水状況です。オレンジと赤の部分が氾濫点です。
http://ecom-plat.jp/nied-cr/group.php?gid=10129

で、上流側の氾濫点ですが、どうも大規模太陽光発電の施設を作り、その付近から溢水が始まったようです。
この点について、ひどく気になることがあったので、ちょっとここで書きますね。


もともと関東平野は基本的に氾濫原が成り立ちで、しばしば水害を引き起こす場所です。
特に水海道のあたりはひどく、古くから治水が行われてきました。
ところが、何ヵ所か堰堤が作られていない場所があります。天然の堤防ができていて、これを利用しているためです。
一ヶ所がここで、戦後まもなくの空中写真には、立派な里山の林が見えます。
これは、鬼怒川の大きなカーブの内側に堆積して生成した、天然の堤防です。(写真は空中写真閲覧サービスより)


治水分類図では砂丘になっています。
http://t.co/Vq1hefFDPz


古い地形図だと、三重にもなっているのがわかります。
だいたい、同じ高さの砂丘による自然堤防が数百メートルあるのがわかります。ピークトップが上流側にあるのですが。


ここは、十一面観音様というゆかりのある観音様が祀られていて、十一面山という地元の名前が付いている、最大比高 15 m ぐらいの小山だったようです。
http://www2.plala.or.jp/subhananohoso/1gaiyo.html
戦前と戦後まもなくは、この林にぴったりとくっついて、集落がありました。
ところが、戦後の高度成長期で、この林をどんどん切り開き、集落側から体積土砂を採掘して開発してしまいます。
おそらくは、首都圏の建築物に用いるコンクリートの骨材目的でしょうね。
国による用地収用も行われず、私有地だったんだそうです。


昭和50年の空中写真では、集落側から開発が始まり、大きく自然堤防は川側に後退し、大きな施設ができているのがわかります。
こっちが 1980年(写真は空中写真閲覧サービスより)

白い細長い二つの建物は、養豚場か養鶏場でしょうね。
そこから自然堤防を挟んで、集落の脇に大きな施設が見えます。


1993年

この施設は、2000年過ぎぐらいには撤収し、ここが更地になります。


問題は東日本大震災後で、この場所の最後に残った自然堤防を削って、大きな太陽光発電施設を作りはじめます。
Google Map のは、2014年の冬の状況ですが、川沿いまで堤防を平らにならし、先の大きな施設の跡地に、盛り土をしているところがまさに見えます。
ユンボも、切り崩している影も、盛り土の部分も、すべて見えます。
https://www.google.co.jp/maps/@36.1344518,139.9559323,477m/data=!3m1!1e3?hl=ja

土をところどころ積んでいるのは、これから盛り土をする目印です。
多くの木も伐り倒してるのが見えますね。


ここは、地元が苦情を自治体に申し立て、土嚢を積んだらしいのですが、きちんとした工事が行われないまま、現在に至ります。
http://d.hatena.ne.jp/hyakubann/20140725
http://asp.db-search.com/joso-c/dsweb.cgi/documentframe!1!guest08!!20539!1!1!129,-1,129!490!22284!129,-1,129!490!22284!130,0,130!12!949!34441!1!8?Template=DocAllFrame
切り崩した高さは 2m に達するという話です。


今回の氾濫は、上流側はまさにここで起こっています。
自然堤防を切り崩したところが、灰皿の切欠きのように水を溢れさせ、上流側の水害を引き起こしたものと想像します。
http://ecom-plat.jp/nied-cr/group.php?gid=10129

見えている多数のパネルは、まさに先ほど大きな建築物があった土地の場所に一致し、水の流入する場所はそのまま、Google Map でソーラーパネルがあった、あるいはユンボが置いてあり、砂丘を切り崩していた場所そのままなのです。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150910-00000258-sph-soci


今回の水害が、ここの自然堤防の砂丘を削り、平らにならしたのが主因かどうかはまだわかりません。
ここが開発されてなくても、下流側の堤防決壊が起こったのは確かです。
しかし、この工事は、自然堤防の大水に対する緩衝作用を大いに減じさせ、ここから水が入ったのも確かなのです。
なお、今回の水害で、最初に水が出たのは、下流部ではなくこちらです。
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/shimodate_00000078.html


国交省主体で用地収用が行われていないのはなぜなのかとか、ソーラーパネルは建造物に相当しないから許可が要らないとか、いろんな社会的背景があるのはわかります。
でも、やはりこれは悪手ですよね。
今後、この件に関しては明らかにされることでしょう。
大事なのは、土地の使い方です。
利用せず、遊ばせておくべき土地というのはやはりあるんですよね。
遊んでいるようで、実はバッファーとして防災上重要な役割を果たしている。
思慮なくここに手をつけると、大事の際にひどい目に遭います。急斜面の森林なんかはホントに典型ですね。
大規模太陽光発電に限らず、立地で、土が痩せていて田畑に向かない、あるいは傾斜地、あるいはなんらかの理由で利用しづらい土地を利用するケースでは、遊んでいるようで、防災上重要な場所や緩衝地帯に相当しないかどうか、よく吟味したほうがよいのでしょう。


電源開発が人を不幸にするというのは、皮肉なことです。