星野道夫

星野道夫 永遠のまなざし

星野道夫 永遠のまなざし


星野道夫の死に様の背景にあるものを、調査をもとに描いた書。

もしもアラスカ中にクマが一頭もいなかったら、僕は安心して山を歩き回ることができる。何の心配も無く野営できる。でもそうなったら、アラスカはなんてつまらないところになるだろう。
人間はつねに自然を飼い慣らし、支配しようとしてきた。けれども、クマが自由に歩き回るわずかに残った野生の地を訪れると、ぼくたちは本能的な恐怖をいまだに感じることができる。それはなんと貴重な感覚だろう。それらの場所、これらのクマは何と貴重なものたちだろう。
(星野)

どんなに近くで一緒にいても、どれだけの長い時間を共にしても、ヒグマと絶対的な友好関係を築くことはできないし、ヒグマの習性や状態を熟知しないでむやみに近づけばかえって危険を導きかねない。
(小坂)


自然は人間の思い通りには決してならないし、もしそうなったらそれは自然ではありません。
しかし、自然を味わい慈しみ、そして畏れることはできます。
まったく自然環境に影響を与えずにそれを行うのは不可能なのですが、無視できるほどの最低限の影響に留めることは可能です。
ただし、それには人間の側の質が問われることでしょう。
餌付などの似非ヒューマニズムに自己陶酔している人にはかなり困難でしょう。
野生動物を餌付けることが、どれほど彼らに不遜な行為であり、彼らを退廃させ、そして彼ららしさを失わせるかを考えてください*1


あいつらとは取っ組み合いをしたら確実に負けますが、あいつらは生活環境のわずかな変化によりあっという間にいなくなります。
そうなったら呼び戻してもそう簡単には戻りません。
戻ってきたあいつらは、最初からいたあいつらではありません。


アメリカのある国立公園では、乾燥した時期にしばしば落雷により森林火災が発生するらしいのですが、これは放置しておくべきだという話を聞きました。
もちろん人が消し止められる規模の火災です。
自然により発生した小火災では、潅木だけが燃え、巨木にはほとんど影響を与えないということです。
消火活動を人の手でしばしば行ってしまうと、潅木が大きく生い茂り、いざ大火災が発生したときに、長い間生き残ってきた巨木まで燃やし尽くしてしまうという結果になってしまうそうです。
似たような話はゴロゴロあり、そして自然のからくりを知らずに台無しにしてしまうことを、人は何度も繰り返してきました。


人間の浅はかな考えは、裏目に出ることが多々あります。
自然と接する上での決まりごとを守ることが、自然のみならず自分を護ることになります。
自然の摂理には逆らわないのが一番です。

*1:それでもなお、長い目で見て餌付ける理由があるというなら、それを示すべきではないでしょうか