鉱物コレクション入門

鉱物コレクション入門

鉱物コレクション入門

goito-mineral さんと kocteau さんの労作です。
面白くて、一気に読んでしまいました。
類例の乏しい本で、鉱物標本をいかに「愛で」、「評価する」かについて書かれています。
こういう本は今までほとんどありませんでした。
鉱物の体系について学術的に紹介する本、鉱物採集のガイド、一つ一つの鉱物にまつわる話を点在的に記述した本というのはあります。
最も近いのは、故益富氏の保育社カラーガイド「鉱物」でしょうか。


鉱物というのは、天然の無機化合物で結晶質のものです。
構成成分(組成)およびその結晶構造によって記載分類されるため、ちょっとつっこんだ話になるとすぐに学問の領域になってしまいます。
私は学問の畑の人なのでそれでもかまいませんが、一般ウケはしないわけです。
この本はそういうかたい話を一切省き、鉱物標本をいかに楽しむかにスポットを当てています。
これがこの本の最たる特色であるといえるでしょう。


私は人の行かない鉱山跡を巡ることが多いので、水晶ばかり集まるんですが、ここまで水晶について多く触れた本は和書では見たことがありません。


完全な初心者よりも、少し鉱物を集めたことがある人〜コテコテのコレクター氏にお勧めしたいです。


ちらほらと出てくるこぼれ話が面白いです。
もちろん、ヤバイ話は載ってませんでした。
実はちょっと期待してたりしたんですけど。


ある水晶の産地の話なんですが、某企業が戦前に掘った穴に潜るんです。
すると、すぐに坑内水が貯まっていて、坑道の中の水溜りを胴長履いて進むんです。200m以上。
もちろん真っ暗です。水は深いところだと腰ぐらいあります。
ガスはないんですが、支保もない素掘り穴です。
200m進むと坑内が若干右に曲がり、水は無くなります。
もう100m歩くと、軽く坑道が十字路になります。
このあたりに大量の電気石を含むスカルンの大塊があって、空隙に珍しい水晶がいっぱい生えています。
ガマのサイズ次第ですが、長さ50cmぐらいのガマでも水晶が60リットルザックにいっぱい採れます。
周りは掘り出した水晶のかけらで地面が埋まり、水晶を踏みしめて歩く感じです。
しかし真っ暗。慣れないと恐怖心で精神状態が少しおかしくなります。
私は掘っても掘っても水晶が止まらない状況で、また別の意味でおかしくなってたんですが。
6時間掘ってもガマの終わりがみえないので途中で引き上げましたが、楽しかったなあ。
切れ目の多く入った水晶が混じっていて(クトナホラ石のヌケガラだと言われています)、ガマ開けしているときに豚皮の手袋ですらざっくり切れてしまうのです。
中の指まで切れちゃいます。ちだらけ。


というのはフィクションです。ということにしておいてください。


ヤバイ話は自然を相手にしてたり、歴史上、あるいは人と人のつながりの中でいっぱい出てきます。
酒の肴にはなります。


なお、この本は採集派、購入派のいずれの立地も兼ねています。
最後の著者略歴の写真がいいですね。