結晶の美は風林火山

結晶は三次元方向に規則正しい配列を有する凝集系物質である。
結晶の規則性は、(エントロピー項を無視すれば)自由エネルギーが最小になるように凝集している
結晶の形状は、原子もしくは分子の配列によって規定される対称性、および複雑さの両方の因子の共存によって引き起こされる
対称性は自由エネルギー最小の原理によって、熱平衡状態が成立するように結晶成長する際に発現する
複雑さはむしろ熱的に非平衡状態の際に起こる
結晶成長がきわめて遅く、原子もしくは分子が自身のエネルギー最小の位置を結晶上に求め移動するのに十分足り得る時間を持つ場合は自由エネルギーが最小になるべく物質移動が起こる
結晶成長が早い場合、供給される分子はエネルギー最小点を探し落ち着くことはできずに新たな分子の供給を受け、熱的に非平衡の表面状態/形状を形成する


結晶の美は、熱平衡が成立している際には規則正しい平面の結晶面で囲まれた幾何学的な美を演出し、非平衡状態では複雑な造形を示すものの造形の構成単位は結晶学的な対称性に基づくことが多い
鏡の如き面で囲まれた結晶はどっしりとした安定さや、空間群によって表現される結晶内部の高い対称性を無意識ながらも嗅ぎ取って感嘆し、樹枝状のパターンの美しさは熱的非平衡さが儚く作り出した過渡的な瞬間芸術に見惚れるのである。きっとそうだ。