想い出話

昨日、ある方と飲みながら「大学の先生ってのは、実は学生にすごく責任重大な影響があって、『オレはこれで一生喰っていく!』って人生の身の振り方の岐路を左右してしまう」って話がありました。
あー、そーかもなー、って思いました。
私は昔から根無し草で、大学学部は1年しかいませんでしたし、もともとヤサグレですから大学の先生の薫陶を受けたとは言い難いんですけれども。


もっとも影響があったのは、中学の理科の先生じゃないかと思いました。
テルミット*1でできるドロンドロンに融けた鉄(なかなかこれは楽しい)に味をしめ、「じゃあ酸化銅で銅のテルミットをやったらどうよ」と、家の前で酸化銅とアルミニウム粉末を混合し、塩素酸カリウムーショ糖を着火剤にしました。
これは、見事に閃光と共に大爆発しました。これが数日前の話題です。
閃光で目が見えなくなったので部屋で寝てたらオフクロが見に来て、顔上半分が真っ赤にただれているのにびっくりしたんだそうです。
(オフクロに後でいわせると、外に面した居間の磨りガラスが真っ赤に光り、ヨロヨロと私が入ってきて、さっさと布団に入って寝てしまったんだそうで。)
で、そこにオヤジが仕事から帰ってきたんですが、息子を病院に連れて行くことなどいっさい考えもせず、オヤジは「タニガワに行く」とさっさとサニーに乗って山に行ってしまいました。
しょうがないのでオフクロに連れられ病院で顔のほとんどを包帯で巻かれ、私はミイラになりました。


次の日に理科の先生(私が創設した科学部の顧問でもあった)が、授業で教室に入ってくるなりミイラと化した私を見て大声で笑い出し、「なにやった?反応式書いてみろ。」って笑いながら言うんです。
しょうがないから


3CuO + 2Al → 3Cu + Al2O3 + 熱!


って黒板に書いたら、やっぱりみんなに笑われましたね。
一度は水酸化ナトリウム水溶液をガラス容器に入れ、これにアルミニウム塊を入れて密閉したら発生した水素で内圧が上がって破裂し、それが寝転んでマンガを読んでいた私の足の裏に刺さってけがをして、またそれも先生に大笑いされたんですが。


そんな顧問の先生でした。
あるときは学校の備品の顕微鏡接眼レンズをばらしておはじきにしてたところに件の先生が入ってきてぶん殴られ、またあるときは数リッターのメタノールを実験台の上に撒いて火を付け、炎で火災報知器を作動させてぶん殴られ、といろいろ怒られましたが、理解のある先生でした。
劇物使い放題で、何でもやらしてもらえましたし、休日に科博に連れて行ってくれたのも先生。
反射望遠鏡の放物面鏡を磨くのに手配をしてくれたのも先生でした。
私は、ハイウエストのぶっといボンタンを穿き、中学の制服のボタン塗料をアセトンで落としアルコール清浄後に電解銀メッキしたものを闇で売ったり*2、無修正エロ写真の現像焼き付けをして流したり、水槽いっぱいのケミカルガーデンの廃液で悩んだり、夜な夜な流星を見たり、趣味の園芸を定期購読したり、いきなり半月も九州を放浪したりと、とにかく周りを困らせた科学ツッパリ中学生だったのです。


その後、とある中学校で生徒がシアン化カリウムを持ち出し自殺に用いて毒劇物の管理が全国的に厳しくなり、時代も流れて責任の所在を過度に追求するのが大好きな親も増えてしまいました。
学校から危険物を持ち出して家で吹っ飛ばして大爆笑、といったおおらかな時代はもう過去の話です。
でも、あの時のヤバさ120%の理科実験は、私にとってはたからもののような想い出なのです。

*1:酸化鉄を微細なアルミニウム粉末と混合し着火すると激しい発熱とともに酸化還元反応が起こり、融点に達した鉄ができる反応。以前は鉄道レールの敷設などで多く用いられた。

*2:これは次の日に手を漆黒に染めてびっくりした。