ニキシー管の想い出
私が研究を始めた大昔、お世話になった研究室に、古い質量分析計(mass spectrometer, 通称マス)がありました。
古い日立のもので、形式が RMU-7。40年前のシロモノ*1。
二重収束で、電場も磁場も検出器もすべてが大きく、クレーンでもない限り動きません。
あのころは、「小さく作ろう」って発想が皆無だったみたいで。
電場−磁場スキャンで掃引するんですが、ペンレコでチャート紙にスペクトルを書くという由緒正しい古来の分析機器でした。
このマスマーカがニキシーでした。
二重収束条件で質量分離している観測質量数をニキシー管でモニターするんです。
これがちっとも合わなくて。
PFK で質量校正をこまめにすればいいのでしょうが、めんどくさくてしてませんでした。
じゃあ、どうやってキャリブレーションするのよ、という話になるんですが、これはバックグラウンドを見れば一発。
感度を上げて掃引すると、質量分析計のグラウンドは、メタン (m/z = 16)、水 (m/z = 18)、窒素 (m/z = 28)、酸素 (m/z = 32)、二酸化炭素、アルゴン、などなどが低質量側にわらわらと出て、高質量側にも多くのピークが出てきます。
高質量側は、ディヒュージョンポンプのオイル蒸気の分解物なんですが、このパターンを覚えていると、PFK とかフォンブリンとか不要です。
そんなに大きな分子は相手にしませんでしたし。
私は、実際の質量数とニキシー管のマスマーカの差を見比べて、「ああ、またずれてるよこのやろう。まじめにやれよこのやろう」とか思いながら、ずっとイオンの分解機構を調べてました。
毎日毎日。
ホントに毎日そいつをいじり、故障を直したり、イオン加速電圧の 4800V で感電したり、真空リークの漏れ探しで悩まされたりして、最後のティーンエイジを謳歌していました。
その後、お世話になった教授は定年退官し、あのマスは廃棄され、あのズレズレのニキシーのマスマーカも今はもうありません。
ニキシーの、やわらかいオレンジ色の数字を見ると、あの日々を懐かしくおもいだします。