タイプ標本

学術上の種の新発見・記載にかかるタイプ標本についての分類。
植物学の命名基準法をもとに書いています。

  1. Holotype(ホロタイプ;正基準標本):命名者が命名法上の type として使用した一つの標本。
  2. Isotype(イソタイプ;副基準標本):holotype の重複標本。
  3. Syntype(シンタイプ;等価基準標本):命名者が holotype を指定せずに複数の標本を引用した場合、そのすべての標本。
  4. Lectotype(レクトタイプ;選定基準標本):命名者が holotype を指定しなかったか、または holotype が失われた場合に、holotype の代わりとして選定された一つの標本。isotype があればそれを lectotype として選び、isotype が無く syntype が存在するなら、その中から一つの標本を lectoptype として選定。
  5. Paratype(パラタイプ;従基準標本):type が指定されている場合、原著論文に引用されている残りの標本。
  6. Neotype(ネオタイプ;新基準標本):holotype も isotype も syntype も失われた場合、新たに指定したタイプ標本。

番外

  • Topotype(トポタイプ):タイプと同じ場所で採集された標本であり、これは命名法上のタイプには相当しない。


私が主に使っている「タイプ標本」という言葉は、一番上の holotype を意味しますが、時に topotype を「タイプ標本」という方もいるので注意が必要。
例えば、昨日のストロナルス長石は、あの標本を正基準標本として国立科学博物館に収めてあるので、まさに holotype です。前にお示しした津軽鉱は、一つの標本を記載に使い、三分割して一つは国立科学博物館に holotype として収めてあり、その片割れを撮影したものでしたので、isotype に相当します。


分野によって命名規約やタイプの確保の仕方が違いますが、こういうタイプ標本があります。


このように、新しい種に対しては、非常に厳密な取り決めがあるのですが、化学における新しい化合物はそうでもありません。
それは、化学は基本的に再現性の高い学問で、論文に記述された実験項目どおりに実験を行うと、(多少のばらつきはあるにせよ)およそ同じ結果が得られるという性善的期待によるものです。
ですので、実験項目の無い論文や、実験項に欺瞞があったり、大事な記述を意図的に抜いていたり、再現性が取れないのがわかっているのにそれを指摘せずに書かれているものは、極めて学術的価値が低いとみなさねばなりませんね。

モナズ石

「モナザイト」という名前で世を馳せた、モナズ石。
福島県石川郡石川町塩沢のものです。ペグマタイトの灰色い石英に埋没しています。これが風化分解すると、比重の大きさから砂鉱として溜まり、これを採掘することも。
monazite
モナズ石(monazite), CePO4, mon., P21/n.
福島県石川郡石川町塩沢
国立科学博物館蔵(櫻井標本).標本番号:NSM-M33989
撮影幅 : 3.3 cm


成分はセリウムのリン酸塩で、花崗岩ペグマタイトなどに時折見られます。
このセリウムサイトはほとんどの場合、程度の差こそあれ他の希土類を含み、セリウムのモル比を越えるものになるとランタンを端成分とするランタンモナズ石、ネオジムを端成分とするネオジムモナズ石などのアナログがあります。
およその場合、セリウムはモル比で半分、ランタンが四分の一、残りが他のランタノイドです。
んで、しばしば、一周期下のアクチニドであるトリウムやウラン類を含み、このために放射性を示すことが多いのです。多いものではモル比で10%近いトリウムを含有し、そこそこ強い放射性があります。
ラドン温泉に放り込まれたのはこのためです。
トリウム源などの利用としてはそれでもいいのですが、ランタノイド系の希土を採るためにはそれだと都合の悪いことがしばしばあり、トリウムやウランを含みづらいバストネス石が好んで用いられるケースも多いようです。


ウランやトリウムの分裂に由来するヘリウムガスがこの石の中に多く含まれており、加熱してヘリウム原料としたこともあったそうです。