失われた技術

仕事の上で、簡易定性元素分析の話になる。目的元素は鉛。
そこでコメント「吹管(すいかん)分析でもいいんだろうけどさ」。
皆「・・・???」
誰も吹管分析を知ってる人がいなかった。
吹管分析(吹管試験)というのは、吹管という口で吹く空気供給器を使ってバーナーの炎を細く吹いてサンプルに当てて、酸化還元反応により元素分析する手法のこと。炎の根本に近いところは還元炎で還元性があり、逆に先の方は酸化炎。
普通は少量の粉末サンプルを木炭上のくぼみに乗せて、細い炎を当てる。


これ、やったことのある人はあまりいないと思うので書くけど、ややテクニックがいる。
口で吹管(漏斗のようなもの)を吹くんだけど、息が絶えると炎が途切れ、加熱試料が冷えてしまう。
んで、ずっと吹き続けていなければならない。
でも人間は呼吸しなければいけない。
で、どうするかっていうと、ほっぺに溜めた空気を頬の筋肉を使って押し出しつつ、その間に鼻から空気を吸って肺に溜める。
切れ間なく肺から口に息を出し、その間に頬に空気を溜める。
これの繰り返しで、人間は永遠に絶え間なく息を吐き続けることができる。
あなたはできるかな?


冶金のまねごとみたいだけど、面白いよ。
もし吹管が手に入るようなら、遊んでみては?
自分で作る金属銅の輝きは、感動的だよ。
赤熱した球が冷えてくると、綺麗な赤銅色の輝きが見え出す。あれがよい。
吹管分析に限らず、融けた金属ってのは本当に美しい。


こういう古い技術はほとんど廃れてしまった。
バイルシュタインテスト(ハロゲン検出)も、きちんとできる人はそう多くない。
便利な世の中になって、機器分析も楽になったのはもちろん喜ばしいけど、古典的な湿式・乾式テストはそうそうバカにできない。
とにかく手っ取り早いんだ。
吹管分析なら、五千円*1で機材を買って釣りが来る。
湿式*2と乾式分析*3をきちんと身につければ、かなり少量の元素分析もできるんだけどね。
鏡下湿式。これ最強。妨害元素も多いけどさ。
そばに機器分析してくれる人がいないけど、鉱物の定性分析がやりたいっていう人は、湿式と乾式はどう?
思いこみや希望的観測で鉱物標本のラベルを書くより、より科学的。
化学の源流。


かくいうオレも吹管なんて久しく吹いてないけどね。
っていうか、吹管、どこにしまったっけ?
やっぱりもう絶滅寸前の技術なんだなあ。


しかし、これだけウェブが発達しても、どこにも吹管の吹き方なんて書いてないんだな。びっくりだよ。硼砂球試験もこの調子じゃ危ないな。

*1:吹管とバーナーね。白金るつぼじゃないぞ。

*2:試料を溶液にして、その後に呈色反応や重量分析、滴定による容量分析などをする手法

*3:試料を溶液にせず、加熱融解や酸化還元反応などの手法で分析する手法。吹管分析や硼砂球試験、炎色反応などはこちら