放射性同位元素を多量に含有する鉱物標本の所持について

数日前の日記で、「鉱物標本に目くじら立てるなよ」という旨の記述を書きました。
これについて細かく書きます。
放射性を示す物質についての規制力のある、一番おおもとの法律はもちろん原子力基本法です。
この第十条に

第十条  核原料物質の輸入、輸出、譲渡、譲受及び精錬は、別に法律で定めるところにより、政府の指定する者に限つてこれを行わしめるものとする。

とあります。また、第十二条には

第十二条  核燃料物質を生産し、輸入し、輸出し、所有し、所持し、譲渡し、譲り受け、使用し、又は輸送しようとする者は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。

とあり、核燃料物質、核原料物質に対する所持に規制がかかります。
ここでいう「核燃料物質」「核原料物質」は、原子力基本法第三条および子法律である「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)と「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(障害防止法)で定義されるもので、原子力基本法では

第三条  この法律において次に掲げる用語は、次の定義に従うものとする。
二  「核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるものをいう。
三  「核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱その他核燃料物質の原料となる物質であつて、政令で定めるものをいう。

となっています。鉱物標本は核原料物質に相当するのですが、子法律の解釈では、核種濃度が 370Bq/g を超え、かつウラン量の3倍とトリウム量の合計量が 900g を超えると法規制の対象になり、それ以下は不問だとされています。
ウランの量換算では 300 g ですが、そんなに持っている人はコレクターではまずいないでしょう*1
というわけで、鉱物コレクターが放射性同位元素を含む鉱物標本を持っていても法には抵触しないのです。
ちなみにこれについては放射線審議会第15回基本部会で、区分が「鉱物、鉱石等に含まれる自然放射性物質の比率を高める処理をしていないもの」について、検討すべき事例として「庭石、研究・教育用鉱物サンプル、博物館所有の鉱物サンプル、工事現場や河原などから出た鉱石など」は法令による規制対象外としています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/03072401/007.htm


ただし、売るとなると話はちょっと違ってきます。
研究・教育用鉱物サンプルの販売については正直、判断付きかねますが、基本法、原子炉等規制法、障害防止法の抜け道を考えておく必要はあります。たぶん量的な見地からこれはシロです*2
ショップが考えなければならないのは、むしろ労働安全衛生法第三十二条の方です。
従業員がどのくらい被曝しているのか、正直わからないのです*3


という感じで脅してしまいましたが、放射性同位元素は身近にもそこそこな量存在します。
カリウムに少し長寿命の同位体が入ってますし、宇宙からも岩石・土壌からも来ます*4
花崗岩の多い山を歩けば、ウランを含む鉱物を見つけることもあります。
医療用のほうが被曝量としてははるかに高く、歯科医のレントゲンは線量が非常に大きいとされています。
天然に存在するウランやトリウムの放射能はかなり微弱なもので、体の内部に取り込まれるとか、肌に密着させない限り、それほど危険性があるというわけではありません。


ここまで厳しくなってしまった原因は、1977年の法整備と、核拡散防止条約を国が批准しているため、ウランなどの元素が国際規制物資として計量管理しなければならないためです。
条約批准のための管理であって、曝露防止とはちょっと違うんですね。


以上のような法令および考察を踏まえ、放医研の件は、鉱物標本まで計上するのはやりすぎだと思うのです。

*1:一時期どこかのディーラーが大量のアフリカ産閃ウラン鉱の結晶を持ち込んでましたが、あれはたぶん500g以上あったと思います。あれなら規制に引っかかるかも

*2:意地悪を言うなら、内部被曝が一番危ないということすら知らない人にウラン鉱物を売るべきではないと考えています

*3:比較的強い放射能を示す鉱物標本が事業場に少なからず存在するのであれば、従業員の健康障害を防止するために必要な措置を取るのは事業主の務めです。一回ぐらいは環境計測しておかないと、あとで訴えられたときの逃げ道がありません

*4:岩石・土壌中のものは、国内では関西・中国地方はかなり高いのです。これは花崗岩が多いためだそうです