玉虫色の・・・

実験室の裏のドアを開けたら、きらりと光るものが落ちていました。
ヤマトタマムシの羽根です。ラッキー。
実験室の裏には猫がちょこちょこやってくるので、虫のパーツが落ちていることが多いです。
カブトムシの角のみとか、トカゲの尻尾とか。
わりといやなんですけど。
なぶり殺しってそんなに楽しいのかな?


タマムシを見たことがない人はいないと思いますので、レンズ解像チェックもかねて、強拡大画像だけ紹介します。こんなに虫をアップすると面白くないですけど。
こんな色です。色がうまく再現できません。これで5倍3倍ぐらい。

ニキビ面クレーターですね。
こうなる前に医者に行けば良かったのに・・・


さらに拡大すると、クチクラの微細な組織が見えてきます。これが現在の最高倍率。
ツブツブがやっと見えてくる程度。
これは画像中央だけトリミングしてますが、だいたい30−40倍8倍ぐらいなのかな。


いつ見てもきれいですね。昔の人が魅せられたのがわかる気がします。
ヤマトタマムシの羽根の色は基本的に緑−赤のグラデーションなんですが、それは光の入射角が大きい場合です。
この色はクチクラが微細な規則的構造を形成し、それによる光の干渉で引き起こされることが知られています。
そのため、光の入射角を小さく、つまり羽根を斜めから見ると、波長の整数倍という干渉条件がずれ、色が変化します。
こんな感じです。

羽根の緑色の部分は、斜めから見ると真っ青(群青色)に見えます。
これをもじって、立場によって意見や主義主張をころころ変えることを「玉虫色の・・・」と表現することがあります。
普通はけなし文句ですので、タマムシにとっては不本意極まりない表現です。
私がその立場ならとりあえず(ニッカボッカを履いて)怒鳴り込みに行くでしょう。
責任者出て来い(責任者って?)。


タマムシの干渉色については、浜松医科大学に研究グループがあるようですので、リンク。
http://www2.hama-med.ac.jp/w1d/biology/hariyama/research/color/color.htm#color3
厚さはスケールから 100-150 nm 程度でしょうか。光の波長よりはるかに薄いのはびっくりですね。

おそらく二種類の屈折率の異なる物質による多層膜なのでしょう。
正面から見た赤い部分と、緑色の部分はおそらく周期構造の膜厚がちがうのかと思われます。
干渉色は特定の波長の光を選択的に反射しているのであって、光が透過しているわけではありません。
タマムシの羽根を光に透かすと、透過光は緑の補色ですから、赤になります。
こんな色です。

干渉色による特定の波長の反射は、繰り返し構造の回数が多いほど、光の波長に対して繰り返し構造の膜厚が近いほど鮮やかになります。
ヤマトタマムシはめちゃくちゃ薄い膜を念入りに繰り返しているので、金属光沢に近いほど反射率が高くなっているのでしょう。
干渉による反射とは逆に、ある屈折率の膜を媒質に乗せると、光の反射を抑えることが可能です。
これがレンズのコーティングで、きちんとした理論があるのですが難しいので省略。
玉虫の羽根の原理を利用したカメラレンズで、玉虫色を表現しているというのは不思議な感じ。
また、この間奈良で話題になったレインボー・ガーネット、あれも干渉色です。
繰り返し構造の膜厚がそれほどそろっていないので虹色に見えるものだと思われます。


タマムシは暖かいところを好む昆虫ですので、関西以西に行くとバラエティが増えるそうです。
筋玉虫なんてのもいるらしいです。


キンタマムシじゃありませんよスジタマムシです。


見てみたいですね。キンタマムシ(←まだ言ってる)。


(追記)倍率の計算式を勘違いしていたので直しました。