This may be a last time.

今日は最終勤務日でした。
どっさりと事務処理が山積み。もーやだ。


→なんとか仕事の内容をまとめ、報告して終わりにしました。


就業時間後は、送迎会でした。
みんな飲んだくれて、バカ騒ぎして楽しかったです。
みなさんありがとう。そしてごめんなさい。
次からは、共同研究でガシガシ行きましょ。いくらでも手伝います。


何度もいろいろな人に「何であんなにいい仕事をやめちゃうの?」って聞かれましたので、その理由を書きます。
ここは給料は良くて、少なくとも今までもらったうちで一番高給で、一番福利厚生のしっかりした職場でした。
手当て・補助もよく付き、余るほど給料がもらえました。
しかし、化学をする研究機関という点ではお世辞にも良い場所ではありませんでした。
就職前に外部から情報を収集しましたが内情をうかがい知ることは困難で、出たとこ勝負になり、そして負けました。


化学という学際領域は、物質の「構造」「性質」「合成」を解明するのが三本柱です。
私の手法は「合成」がメインで、作ったものの評価に残り二つが必要なのです。
ですが、この仕事場ではこういった基礎が出来ません。
モノを作るのが難しく、作ったところで基礎データが取れないのです。
でも、仕事の内容は合成を要求されます。やれっこないってば。
原因は、法律よりはるかに厳しい所内内部ルールです。
NMR をはじめとする分析機器はあるのですが、薬品の管理が厳しすぎ、重ベンゼンも重クロロホルムも使えません。
私の仕事から考えれば、それは「ここではモノを作るな」と言われているのと同じです。
まあ、なんとかなるだろうと思って入ったのですが、なんともなりませんでした。
うまーくすり抜ける方法をさまざまなセットパターンで考えましたが。
だましだましヤルのは、上司と研究機関の理解が必要なのですが、ここはとにかく事なかれ主義。
自分に責任追及の矛先が向くのを皆が嫌がるあまり、より簡単で小手先の研究に流れがちです。
保安管理は形式だけ。法律遵守(コンプライアンス)にはうるさくても本質とはまったく関係ないところばかりです。
毒劇法をうがって解釈すると、瓶の中に入っているメタノールは医薬用外劇物で、きちんと保管しなければならないのですが、法律的には瓶の口から注ぎだされた瞬間、それは劇物ではなくなります
しかし、それは科学的にはなんの意味も無いことです。
挙句の果ては、メタノールは100mg単位で管理し、ドラフトに鍵をかけろと真顔で言われてしまう有様です。でも、瓶から出したらあとはどうでもいいのです。変な話。
ナトリウムを使おうとするとものすごい大変でした。
セシウムを使おうとすると、それは大丈夫なんですよね。
セシウムはナトリウムよりはるかに危険な、空気中で勝手に燃え出すやばい金属なのですが、マイナーすぎて劇物から外されているのです。
法律遵守という点ではナトリウムの方が管理は厳しくなければなりませんが、科学的な見方ならセシウムの方がはるかに要注意です。
GPC を持ってきてセットアップしても、トルエンクロロホルムも使えず、NMR も実質使用できず、使えるのはいいとこ ESR と赤外ぐらいで。
そもそも単離ができないので、分析も何もあったものではないんですけどね。
合成試薬を買おうとすると、毒劇物があったらその審査で3ヶ月、3回の書類出しと審査を経由しないと認可されません。
ほとんど仕事ができませんでした。


独立行政法人で、研究予算は国立大学法人に比べまだ若干潤沢なのですが、予算はあっても使い道が無い、と。
混ぜ屋の仕事みたいなのをしてましたが、混ぜたものの評価がいいかげんになってしまい、話になりませんでした。
しょうがないので共同研究契約案を大学に上げましたが、半年間まったく音沙汰なし。
予算が絡むのでしょうがないとも言えるのですが、「何なのこのフットワークの重さは」って感じで。


まあ、自分のやり方を捨て、とことん混ぜ屋に徹し、就業時間がきたらさっさか帰ればびっくりするぐらいの給料が振り込まれるというのもいいかもしれません。
それは、「研究(労働)に対する適応力」と表現される一種の諦め*1によく似ています。
でも、それを一生するつもりにはなれず、自分の科学観の根底にある化学を捨てることもできなかったので、可及的速やかに辞めちゃいました、ということです。
「流しの研究者」、「パ・リーグにいる研究者」でいいです。娼婦の意地です。
生涯賃金はがっくり下がったことでしょう。
たぶん1000諭吉は下がったんじゃないかな。
でも、すっきりしました。


なお、次の仕事は、財団法人です。ほとんど顔パスでした。
今は、独立行政法人国立大学法人も状況としてはあまり良くなく、予算も無いので純基礎もほんの一握りの人しかできず、かといって純応用をやろうとしても企業のマネーパワーと人海戦術にはかないっこない、中途半端な状況にあります。
展望もそれほどクリヤーな要素がありません。
じゃあ、企業はどうかというと、今度は製品開発を求めすぎるあまりに時間的な締め切りがきつく、目先のことを問題解決型思考で解消しようとすると、長い目かつ広い視野での研究にならないでしょう*2
仕事が、雇い主を儲けさせる方向に向いていなければならないのは言うまでもありません。
なので、間を取りました。
共同研究先に媚を売る真似をしなくてもよいと所長に言われましたし。
ボトムアップで仕事の半分は共同研究に費やすが、もう半分は自分の好き勝手にやらせろ。」という意思を通しました。
雑用のための雑用は最初から拒否。
誰かがしなければならない、価値ある雑用(それでもだるい)なら受けます。
それが通ってしまうのが財団法人のいいところ。


凶と出るか吉と出るかは入ってみないとわかりませんが、中の学生さんの話や顔つきを見ていると、所長の言うことはそれほど大げさでもなさそうです。
ずっといていいよ、という話でした。居心地よければお言葉に甘えることにします。

*1:ホントはそうではないんです。新しい分野で勉強し、自分の手法を広げるのはとても有意義なことです。でもそれは化学屋にとっては、仕事に支障が出ない程度の管理の緩さが確保できた上での話でしょう。自分の一番得意とする手段を封じられたら、足がかりが無いのでそこで立ち止まってしまいます。私は合成は得意でも特殊清掃はしたことがありません。

*2:大きな企業の研究所なら別でしょうが。基礎研とか中研とか