過飽和炭酸ガス

朝来て実験しようとしたら、デュワー瓶に入っていた液体がいきなり音を立てて噴き出しました。
???
どうやら、金曜日に作ったドライアイス-アセトン浴が、実験を始めたショックで噴き出したもののようです。
ガラス壁のキレイなデュワーで、低温実験用(-78℃)のドライアイス-アセトン浴を作ると、溶存した二酸化炭素の気化が円滑に起こらず、アセトン浴の下部に大量に二酸化炭素を溶かし込んだ二酸化炭素超過飽和アセトンができます。
これはゆっくり温度が上がるにつれて、二酸化炭素の溶解度が減少するために、より過飽和度が増します。
これがある種のきっかけで二酸化炭素の猛烈な気化を起こすと、ドバーと噴き出します。
コカコーラをよく振って、いきなり開けたときのような感じになります。
しかも、浴表層温度は底部に比べて高いので、噴き出す時はその勢いが加速されます。
不思議なことに、二酸化炭素は超過飽和になる傾向が高く、液体窒素などではこのようなことは起こりません。
低温でクラスターか、溶媒を介在したクラスレートでも作っているのでしょう。


これで思い出したのが、ニオス湖の事故です。
カメルーンニオス湖は、火山性炭酸ガスが過飽和過飽和になるまで湖底にたまり、ある種のきっかけで猛烈な気化を起こし、86年の事故では1800人以上の方が犠牲になりました。
最初のうちは、ニュースで「硫化水素」とか言ってたんですよね確か。
今では、少しずつガス抜きしているそうです。


月曜日の朝の実験室って意外と怖くて、大戦中のある月曜日に某光学機器メーカーで爆発事故が起こり、何人もの方がなくなったことがあるようです。
特高警察の調べでは意図的な爆発ではなく、事故だったということです。
原因は銀鏡反応の廃液でした。
アンモニア性硝酸銀溶液にアルコールやアルデヒドを加えて放置すると還元されてできた銀がガラス壁に鏡を作るので、反射鏡などではよく用いられたのですが、この廃液を熟成すると危ないのです。
アジ化銀や雷酸銀を多く含み、ちょっとした衝撃で爆発を起こします。
乾燥したものは、鳥の羽で撫でただけでも爆発するそうです。
なお、今ではほとんどの光学部品用の鏡は真空蒸着法でメッキしています。
可視領域では銀、赤外領域では金、可視+紫外領域ではアルミニウムを用います。
デュワー用の鍍銀は未だに銀鏡反応です。


週末の片付け物はしっかりとしろ、という教訓でした。