傾軸式双晶

数日前の日記に書いた傾軸式双晶って、こんなのです。
inclined twinning


inclined twinning


全ての結晶が、矢筈型の傾軸式双晶になります。
ちょっとわかりづらいんですけど、細かいのもみんなそうなってます。
意識的に結晶を育てようとしたわけではなく、単なる純度上げのための再結晶ですので、結晶は細かいです。
育てようとすればセンチメートル単位で育てることは可能でしょう。
もちろん新規化合物。私の子供です。
今日構造解析しました。ちゃんと予想通りの目的構造でした。


双晶というのは、結晶構造におけるボタンの掛け間違いのようなものです。
服のボタンは1次元ですが、3次元における分子配列のボタンの掛け間違いが双晶です。
溶液中に溶質が飽和濃度以上に存在すると、核形成して分子が集合し、結晶化が起こります。
この際、結晶表面の表面エネルギーとエントロピーの兼ね合いで分子が配列し、「ボタンをプチプチかけるように」分子が配列していくのですが、しばしばボタンを掛け間違える条件があるらしく、基板配列とは異なり、かつ方位的に規則性のあるボタンの掛け間違いが発生します。
一回掛け間違えると元には戻らず、そこから2方向に結晶成長が起こります。
もうひとつは、生成された結晶核がすでにボタンの掛け間違いが仕込まれている場合です。
およそほとんどの双晶はこのようなきっかけで成長が始まります。
また、外部の応力や熱ショックによってもボタンの掛け間違いを起こさせることができます。


さて、こう言っちゃなんですが結晶形態学というのは日の当たらない分野*1ですので、いまどきの化学者は双晶を見つけても論文になりませんから研究しません。気づかない人も多いです。
結晶形態学が生きてくるのは、氷と医薬ぐらいです。
医薬は溶解速度が重要なので、多形と結晶形状をすごく気にします。
しかし、普通の合成屋は双晶なぞ相手にしません。
それは、土木工事中に土建屋が遺跡を掘り当てても、発掘作業なんか入ったら仕事が進みませんから、見て見ぬ振りをしてさっさか掘り起こして埋めて工期に間に合わせちゃうのとよく似ています。


レンズは Luminar I 16mm です。
べっ別に、Dr. K に花を持たせてやったわけじゃないんだからね!

*1:結晶成長学は重要な意味を持つ学術分野で、結晶形態学と密接な関係がありますが、形態学だけで論文を書く人は非常に少なくなりました。