蛍石の加熱による発光

数日前から「蛍石」という鉱物名がよく日記に出てきますが、これは天然のフッ化カルシウムのことです。
雅な和名は加熱すると蛍のように発光するところから来ています。
また、こいつは紫外線照射によってもよく光ります。イギリスのある産地の蛍石では、太陽光でも蛍光を出します。
こういった紫外線照射による発光はウェブ上のいたるところに写真があるのですが、加熱の際の発光に関しては見たところ写真がありませんので、撮ってみました。


まず、試験管に蛍石を入れます。産地は中国*1
fluorite_1
この実験は加熱された蛍石がパチパチはねるので、火傷の可能性があります。
試験管には紙で栓をして、飛び散らないようにします。


これをガスバーナーで加熱します*2
fluorite_2


パチパチ割れてくるようになったら、電灯を消します。
fluorite_3
もうバリバリに光ってまんがな。


ここまできたら加熱をストップしても大丈夫。青白い蛍の光です。
5分ぐらいは光り続けます。
fluorite_4
よく観察するとわかるのですが、蛍石がはじけるときにものすごく強い発光を示します。
この発光は、加熱前後で成分はまったく変化しませんので、熱分解ではありません。
蛍石の中の格子や原子配列の欠陥に基づく歪が加熱により緩和され、この余剰のエネルギーが光として放出されるもののようです。
ですから現象としては thermoluminescence よりむしろ triboluminescence に近いでしょう。
するってえと、蛍石をハンマーでぶん殴って粉にするときも発光するはずなんですが、これを試したことはありません。


一度加熱して崩壊してしまった蛍石は、成分や色は変化ないのですが、再加熱してもまったく光らないのです。
fluorite_6
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↑青い輝点はバーナーの炎の写りこみです。


「なんでほたるいししんでしまうん?」


この発光現象に気付いた日本人が、この鉱物に「蛍石」という名前をつけたのでしょう。
ラテン語の fluorite は、fluor(流れる)からきているといいます。
融剤として鉱石の分解融解と精錬に使えるからだということです。
しかしこれに関しては私は疑問に思っています。
命名より先にそんな複雑な用法をあみ出せるのか、と。
fluor- は蛍のように光るものの接頭詞でもあります。
fluorite の発光を fluorescence と名づけたのか、fluor(蛍光)性だから fluorite としたのか、それについてはよくわかりません。
卵が先か鶏が先か、という論です。


(メモ)当然、撮影レンズは Nikkor-O 55mm F1.2 (f = 1.4), D3 を ISO 1250 相当で使っています。
もちろん手持ちなんですが、かえってピンボケ写真が多くて失敗でした。
このくらいの発光ならきちんと三脚立てて、絞ってスローシャッターで撮った方がきれいなはずです。
できれば蛍石のレンズを使いたかったな。UV-Nikkor か Ultra Achromatic Takumar 85mm かで。

*1:どこかに豊栄のものがゴロゴロあったんですが、押入れの奥で出てきません

*2:バーナーは化学者おなじみのプリンス GB-2001 です