ヘリウム

500 MHz NMR の液体ヘリウム充填作業をしようとしたら、中で霜が凍り付いていました。
空気中の湿気が隙間から入り込んで固化したものです。
室温なら水は「ほっときゃ蒸発するよね」で何の問題にもなりません。
しかし、液体ヘリウム温度では、沸点に達するまでに 370℃も温めなければならない、硬度のきわめて高い鉱物なのです。
ガチガチで、始末悪いんです。
どこからでも入り込んでくるし。


植村直己の本だと思いましたが、「極地でカメラレンズに付いた埃を取ろうと息を吹きかけたらレンズ上で凍りつき、まったく使い物にならなくなった」というくだりがありました。
低温での霜はどうしようもなくしつこいです。
拭いても拭いても落ちません。


さて、液体ヘリウムは非常に高価な液化ガスで、液体窒素との対比でしばしば Scotch and Water と表現されることがあります。
液体ヘリウムは並みのスコッチウィスキーぐらいの値段がしますが、液体窒素ならミネラルウォーター程度です。
しかも、みるみるうちに蒸発してしまいます。
きっちり断熱を取ってやればそこそこいるんですが。


今回の作業のトラブルでオレが何リットル分のスコッチを蒸発させたのか、それについては問わないでください。
だってさ、Ultra Micro Nikkor 28mm F1.8 が買えるような額が、あっという間に雲散霧消(まさにこの言葉がふさわしい)してしまうんですよ。
もったいないったらありゃしない。


液体ヘリウムが高いのは、断熱液化にものすごく手間とエネルギーが必要なのと、その希少性ゆえのためです。
液体空気の分留でもわずかに採取できますが、大部分はアメリカ、ワイオミングやカンザスのガス井から出てくるものを採取して分離しています。濃度の高いところでは数%に達するという話です。
ガスでも鉱産物資源なんですね。