スコロド石

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木浦鉱山駄積形尾(ダツガタヲ)産


ミネラルマーケットで、id:bismuth さんのブースで購入した石です。


福地版日本鉱物誌(大正5年)に、この鉱物について、記載があります。旧字体は直しました。

豊後国木浦鉱山ダツガタヲに於いて硫砒鉄鉱を有する鉱石の表面に藍鉄鉱と共に微細結晶をなして附著せる鉱物あり。
その鉱物は普通暗緑色にして時に橄欖緑色または帯緑褐色をなし多くは透明なり。光沢は玻璃状にしてすこぶる強し。結晶は八面体類似の晶相にしてその大さ径三ミリを超えず。へき開なし。破面は貝殻状を呈す。
(中略)
以上の事実を総合すれば本鉱物はその成分ははなはだ毒鉄鉱に類似し、およそ4Fe2O3-3As2O5-15H2O にして、結晶系は斜方晶系あるいは単斜晶系に属する新鉱物ならんと思はる。


これがまさしくその鉱物で、「藍鉄鉱」は後の研究で亜砒藍鉄鉱(パラシンプレサイト)だということがわかりました。
内容をかいつまんでしまうと、「分析すると砒酸鉄だってのはわかるけど、葱臭石か毒鉄鉱かよくわかんないけど、どうも葱臭石じゃないっぽいよ」って記載があるのですが、まさしく葱臭石(スコロド石)でした。
X線どころかまともな国産ルーペもない時代ですからね。
顕微鏡はライツとツァイスのがある頃、国産第一号の M. カテラが出てくる前の話です。
比較対象の毒鉄鉱はその後、カリウムが入っていることがわかりましたし、どう見てもこの鉱物は立方晶には見えません。
まあ、そう言っちゃうと後出しジャンケンになっちゃいますけどね。
その頃の湿式定量で、こんな小さい石を分析するのは大変だったでしょうね。
たぶん容量分析じゃなくて、沈降焼成で鉄を出してるんじゃないかな。


やや歪んだ緑色透明の八面体の結晶が右上にくっついてます。
成分は3価の鉄の含水砒酸塩。3価の鉄の色じゃねーぞ、と思われる方は結晶構造で鉄の配位様式をチェックして。
空間群は Pbca。ヒネリが無くてつまんないですね。
結晶構造の最新のものは、芥の合成のものでしょう。
Acta Crystallographica E63 (2007) i67-i69


駄積形尾は3回訪ねてますが、いいスコロド石に出会ったことがなく、購入できて嬉しいです。


ちょっと手抜き撮影で、像がちっともシャープじゃないのはご勘弁ください。絞りすぎ。
時間がなくてじっくり撮れないのが悲しいです。
あとでライティングをきっちり出して、コンバインします。
レンズは Zeiss Luminar 25mm 橙点です。逆テッサーのかわいい子。