山岳ガイドの資格

今回の大雪山系の遭難では、一つの商業パーティーで(初夏にもかかわらず)8人の死者が出ました。
ニュースでは、ほとんどが低体温症(いわゆる疲労凍死)だとの情報です。
これ、ツアー会社およびガイドに多くの問題があるように思えてなりません。
ニュース見てると、うんざりするほどツッコミどころが見えてきます。


十数年前、本多勝一が指摘したように、日本には国家資格としての山岳ガイドの資格がありません。
誰でも、「自分は山のガイドだ」と主張すれば、ガイドになれるのです。
もちろん、多くの経験と技術を厳しい認定試験で評価する、信頼のおけるガイド協会もあります。
しかし、ガイドの基準はそれぞれの協会における独自基準であり、統一のものではありません。
まさに玉石の混じり合った状態です。下はひどいですよ。
ツアーでは、自称「山岳ガイド」がリーダーシップをとります。
彼が持ち物チェックをし、コースを決め、現場での判断を下します。
これ、かなり怖いことなんですよ。
きちんとしたガイド協会に所属するガイドの主催する山行なら、天候不順で頂上を踏めずとも、きっと楽しめることでしょう。
しかし、リーダーの経験と力量が不足していたら、状況によっては山行は悲惨なものになります。
博打ですよ、これは。


明治35年の八甲田山雪中行軍演習での遭難は、天候悪化、指揮系統の乱れ、リーダーの判断ミス、土地に明るいものの欠落、の4点があの悲惨な事故を起こしたことを新田次郎は指摘しました。
ほとんどそれと変わりないように思われます。今回の遭難も。
過去の事例からなんにも学んでないんですね。

秋吉久美子がむちゃくちゃ若くてかわいいんだな*1


かろうじて下りてこられたガイドとツアー客も、トムラウシの温泉までの急峻な下りを、夜通し下りてきたようです。
途中、疲労でペースを落としたお客に合わせること無く、ポロポロと脱落者を出しながら。
よく、無事で下りてこられたものです。もっと死んでもおかしくない行動ですよ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090718-00000001-mai-soci

 一方、ヘリで遭難者の救助にあたった陸上自衛隊の2等陸尉(32)によると、死亡した人の中には、薄い雨ガッパに長袖シャツ、スラックス姿や、持ってきた予備の服を体に巻き付けたまま倒れている人もいたという。

装備、行動決定の点でかなり常軌を逸したツアーであったことがわかります。
なぜ、トムラウシの上りで、お客の装備と体力の消耗状況を鑑みて、すぐに避難小屋まで Uターンできなかったのか。
なぜ、携帯電話の電波の入る状況で、なぜ天候の変化をチェックしようとしなかったのか。
縦走とはいえ、避難小屋を基点として、ツアー中止と下山、もしくは停滞や救助要請を出す数回のタイミングを逃しています。
これは、リーダーシップを取ったガイドの判断ミスと考えてほぼ間違いないでしょう。


第一報で「大雪山系で中高年が集団遭難」と聞いた時点で、深田百名山狙いかな、と私は思いました。
多いんですよ。中高年が運動不足解消に、深田百名山のコンプめざしちゃうのって。みんながそうだとはいいません。
スタンダードがないと山も登れないのかよ、って思うことしばしば。
アレはもともと深田氏がざっくり自分の判断で決めた適当なリストアップ。
誰もがそれをなぞる必要はありません。それは深田氏自身も後にそう語っています。
深田百名山には、日本の代表峰があげられ、天候次第で牙を剥く山が多く含まれています。山というのはもともとそういうものですし。
近所のハイキングと勘違いしてはいけません。
今回のツアーは、素人が登れるように、ボッカが荷物を担いでいます。
ボッカがいなければ山に登れないような体力の登山者が、でかい低気圧と前線の通過する初夏の北海道の山へ、観察と判断能力に多くの疑問の残るガイドに連れられて突っ込んでいったのです。


ご冥福を祈ります。


単独行とグループ登山はすべて自己責任。
しかし、プロのガイドを雇ったツアーでは、ガイドは自分の登山家生命を賭けて、お客を安全に楽しませ、付随する責任の多くを個人とツアー会社で負います。
まったく違うんですね。これは。
だから、山のガイドをお金で雇っても、ガイドは口やかましくいろいろ指示するはずです。
かましければやかましいほど、信頼のできるガイドです。
でね、もしあなたにどうしても登りたい山があり、自分の登山スキルでは安全に登れるかどうかわからないとしますよね。
その場合は、この胸ワッペンを付けている人に訳を話してガイドを頼んでください。
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ホントに引き受けてくれるかはコッチの技術と向こうの都合次第だし、お金もかかるでしょう。
礼儀正しくなければ断られるかもしれません。
しかし、一回引き受てもらえれば、ベストのガイディングをしてくれるはずです。
ここのガイド資格は安売りしておらず、認定ガイドも数えるほどしかいません。まさにトップエンド。
付き合いのめんどくさいヤツからは、多く得るものがあります。
ホイホイとウェブでガイドを引き受け、「誰でも山の上に連れてっちゃうよ。安いよ。」ってのが一番危ないんです。へたすると殺されます。


自然は、人間の都合にはまったく合わせてくれません。
そして、怒り出すとものすごくおっかないものです。
自然を相手にするなら、人間が自然に合わせて、牙を剥くタイミングを読まないと。
自然にはかないっこありません。奢っちゃダメよ。
突然ヤバくなったら、隠れて丸まって、安全なところまで逃げて、状況が好転するまで待たなけりゃ。
それがわからないと、死にます。


(追記)あ、書き忘れてました。
パーティー登山で怖いのは、大人数で、参加者の実力差がありすぎる場合です。
ちょっとだけなら、なんとかなります。ありすぎるとそこでまた問題が起こります。
コースによりけりですが、参加者の実力ではどう頑張っても登れないってのはあります。当たり前ですね。
普通は、「オレのスキルじゃ無理だから」って自分から辞退するものです。
が、最近はそれすらもラフに見積もれないみたいで。
ガイドはそれを冷静に判断して、「無理です無茶です。やめときなさい」って最初に断る場合も少なくありません。
それができなかったらガイドではありませんよ。
訓練してこなかった自分を恨みましょう。

*1:案内人に対する態度という点では、原作とはまったく違います。