「小穴純とレンズの世界」展

表題展示を見に、駒場の東大教養のキャンパスに出向いてきました。
小穴純教授(1907−1985)は、応用光学の研究者で、我々(我々って、誰だ?)の世界では極超高解像力レンズである「ウルトラマイクロニッコール」の産みの父として知られています。
彼の、学生時代からのノートや書簡や蒐集レンズや、ホンマモンのウルトラマイクロニッコール 29.5mm が展示されていると聞いたら、行かなきゃモグリですぜ。


彼は、もともとは「熱電子に関する一般研究」というテーマ(これも広いテーマだこと)を手がけていましたが、大学院時代に師事した教官の手伝いから分光学に興味がシフトし、光学機器の設計製作に一生を捧げることになったようです。
見るかぎり、純粋な幾何光学よりむしろ、応用光学のほうが寄与が高いようです。
この時代、ボーアやハイゼンベルグをはじめとした量子力学が物理学を席巻し、湯川、仁科グループをはじめとする日本の量子物理学が花開くのですが、それには目もくれず、「ものづくり」に心血を注いだのでしょう。
古典物理学の「幾何光学」と産業との橋渡しの役に徹し、多くの相談者が研究室を訪れたそうです。
これ、すごく大事なところで、最近の大学の先生は霞ばっかり食ってるから、中小企業の人は「大学は敷居が高すぎて相談にいけない」ってよく愚痴をこぼします。これはやっぱりいけんよ。


で、本題はやっぱりウルトラマイクロニッコールですよね。
これは半導体の回路焼付け用で、1960年代から開発がスタートしています。
1962年、1964年に日本光学が開発した、ウルトラマイクロニッコール105mm F2.8、29.5mm F1.2 が木箱と共に展示してありました。
後者は小穴教授がリクエストを日本光学に出したと聞いております。
すごいよこれ。
30mmh
e線で、解像力 1200本/mm という鬼のようなスペックのレンズで、ひっくり返しの対物レンズみたいな設計になっています。
何本残存しているんでしょうか、この世の中に*1


これで、「チャタレー婦人の恋人」の全ページを一枚の切手の面積内に縮小して複写し、やはり同レンズでオリジナルサイズに戻すという離れ業をやってのけます。
すごいなー。解像力高いなー。ほしいなー。


ちなみに、私が普段使いしているウルトラは、三代目(1965年)の、28mm F1.8 初期型です。
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こいつも伝説の極超高解像レンズです。半導体産業黎明期のものなのにね。


キヤノンは等倍リレーレンズから入り、ニコンはいきなり縮小系から設計をスタートしました。
この選択と、脇本氏の活躍と、小穴教授の先見の明と、総合的な技術力の高さから、半導体製造装置はニコンのドル箱になったのです。
最近ぜんぜん儲かってないみたいですけど。


そんなこんなで、楽しめる人には楽しめる展示なのです。


ちなみに、入り口のところのコレクション展示は

  1. Micro Nikkor 7cm
  2. Fujinon Super Micro 26mm F1.4
  3. Nikkor-O 50mm F1.0
  4. Ortho-Nikkor 13cm F4.5
  5. Ultra Micro Nikkor 28mm F1.8h
  6. Carl Zeiss Jena Planar 35mm F4.5

に目が行きますよね。マクロマニアックな人でしたら。



(おまけ)最終講義の風景
koana
私はすごく色好みなる人ですので、これを消すのは重要なことなのかもしれません。

*1:ちょっと前に、オファーが来たんですが、チキンなので見送りました。買っておけばよかったかな、と今でも思いますね