ニュートンゲージ

写真撮影用のレンズは、いかによい写りを出せるか、ここに設計者と製造者の多くの心血が注がれます。
例えば、こんな、光学系。
scanner nikkor

6群14枚でだいたい対称。われらがプリンちゃんは、こんな設計らしいんです。
これはスキャナニッコールの図なんですけどね。
凝りに凝った設計です。基準倍率は等倍。


で、レンズには多種のガラスが駆使されます。
一つ一つが屈折率が違い、そして屈折率の波長依存性が違います。
国内最大メーカーは、相模原にあるオハラで、二百種以上の光学ガラスを作ることができます。
世界最大手はショット(ドイツ)。ニコンは自社でガラスを製造する数少ない光学機器メーカー。
そして、会社が違うと、ガラスの特性も微妙に違い、設計にも影響します。
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これをうまく組み合わせて、よく写らない原因である「収差」を減らすように努力します。
収差は、三角関数を展開して3次の項までの近似で考えたとき、5種類あり、これに色収差が加わります。
これをいかに潰していくか。それは、途方もない数の変数を持った多元方程式を解くのと同じ。
近似解はあれど、正解はありません。
これをうまくこなし、どうやってビジネスにまで持っていけるか、それは設計者にゆだねられます。
たぶん、プリンちゃんとかは、その上の5次収差まで考慮されているはずです。


たとえうまく設計計算ができても、それが現実に加工できなければ意味がありません。
レンズの設計は、基本的には球面の組み合わせでなされますが、この球面は 1/100-1/5000mm 単位の公差精度で作られます。
研磨皿に載せ、何度も研磨剤を変え、最終的に磨きあげます。
レンズは反射望遠鏡の面精度よりははるかに公差がゆるいのですが、それでも、光の波長ぐらいの精度は必要です。
検査は、今は光の干渉を用いて自動で行います。以前はこんなのを使っていました。


ちょうど検査球面の逆の型で、これをニュートン原器(ニュートンゲージ)と呼ばれます。
これは、ズイコーレンズのニュートンゲージで、これでレンズ一本分。
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被検査面のrの値によって、ほとんど平面に近いものから、ビー玉みたいな半球まで。
おおもとの原器ですので、設計値通り、非常に正確に作られています。


これでどうやって精度を測定するか。
二つの平滑な面を張り合わせ、その面ー面間の空気ギャップが光の波長と同じか、その数倍程度まで狭まると、光の干渉が起き、白色光下では面が虹色に見えます。これを「ニュートン縞」(ニュートンリング)と言います。
平面ではこんな感じ。
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この縞の数や、縞の出方をよく見ると、レンズ球面や平面が、原器からどのぐらいずれているのか、面の素性がたちどころにわかります。



ニュートンゲージ法によるレンズ精度の検査はすでに過去の話になり、検査対象物を失った古い原器たちは打ち捨てられ、その存在すら知るものも少なくなりました。
ごく一部は、「ねこのてぶくろ亭」にやってきて、結晶を育てる器になるという、第二の人生を送っているのです。
意外といい結晶が育つんです。「ヘンな使い方するなぁ」とおっしゃられるかもしれませんが。
がんばれ原器!