毒重石

日本の古典鉱物の代表、発盛鉱山(椿鉱山)の毒重石。
成分は単純な炭酸バリウム。斜方晶系。
witherite
毒重石(witherite), BaCO3, orth., Pmcn
秋田県山本郡八峰町椿 発盛鉱山(椿鉱山)
東京大学総合研究博物館蔵(登録番号 70097)
標本幅 : 5.0 cm
Nikon Micro Nikkor 60mm F2.8G ED/Nikon D3


発盛鉱山は、旧八森の街のど真ん中にあった銀鉱山で、明治中期から末期にかけて大規模に露天掘りした鉱山。
黒鉱鉱床といわれている。
大量の重晶石を含む鉱石で、富鉱部にはそれに加えバリウムの炭酸塩鉱物である本鉱物を多く含んで、銀の品位は 0.1-1% 近くあったらしい。
毒重石は、日本ではここ以外にはほとんど産することがなく、日本ではかなり珍しい鉱物の部類に入る。
明治末期にはあらかた掘りつくしてしまい、ここの毒重石は、代表的な古典標本として取り扱われることが多い。
たまーに出現する古い組標本にここの毒重石が入っていることがある。
そういうのは、およそ明治末−大正時代の組標本である場合が多い。


表面を細かい重晶石が覆った結晶で、結晶は半透明。
風化に弱く、見かける本鉱物のほとんどは、結晶粒こそ大きいものの、光沢があまりない。
名前の「毒」は、この鉱物の有害性に基づく。
重晶石は希酸には溶解せず、硫酸バリウムはほとんど無害なためにレントゲンの造影剤に使われるが、炭酸塩のこの鉱物はそうではない。
胃酸で容易に分解し、塩化バリウム炭酸ガスになる。
この塩化バリウムが高い有害性を示し、おそらく食べると中毒する。