誤用

新しい実験化学講座の配本を受け取る。
いつも気になる間違いを何カ所かで見つけた。
「シリコン(silicon)」と「シリコーン(silicone)」だ。
シリコンはそのままケイ素のこと。これはそれほど難しくない。
しかし、シリコーンは違う。シリコーンはケイ素ー酸素結合を主鎖骨格とする有機金属高分子の一つで、線状もしくはネットワーク状の構造を持つ。
ケイ素の原子価は混成軌道により4で、普通はそのうち2つもしくは3つが酸素と結合している。残りはメチル基やフェニル基で押さえている場合が多い。
ゴムやオイルは「シリコーン」の方だ。


つまり、「シリコーンウエハ」は間違い。
「シリコン豊胸手術」もあまり正しくない。
正しくは「シリコンウエハ」「シリコーン豊胸手術」だ。


本業の人でもよく間違える。


シリコーンの方は、高分子素材として、10年前と比べて様々なところで見かけるようになった。
もっとも恩恵を受けているのは、大人のオモチャ業界だろう。
ほとんどのものは、シリコーンでできているようだ。
無味無臭で無害。透明ー半透明で、着色が容易であり、ゴム弾性もそれなりに高い。弾性率のコントロールが容易であるなどの様々な理由による。
モールドの再現性、熱伝導度など、この材料でないと性能が出てこないものも多い。
まさにうってつけの材料。適材適所。
誰がシリコーンをこの方面に初めて使ったのだろう?


有機ケイ素化合物は、いろいろなところで使われている。
これらは外国から輸入した珪石から作られる。
光学材料や半導体用ケイ素はペグマタイト質珪石から作るが、それほど純度の要求されないものは、脈珪石から合成されることが多い。
ペグマタイトの美しい水晶が、金属ケイ素になり、直接法によりジメチルジクロロシランになり、加水分解されてシリコーンゴムになり、大人のオモチャになる。なんか不思議*1

*1:もちろんいくらでも使い道があり、それだけにしか使えないというわけでは決してない。念のため。