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珍しく朝から実験。
中国人ぽすどくの質問攻めに答える。
彼はもう少し英語を勉強したほうがいい。
日本語もダメ、英語もダメでは、意見交換ができない。
ある論文の実験項を持ってきて、この反応がしたいと言う。
実験項を読んでみると、反応はすべて無酸素脱気条件、使用する試薬もすべて脱気して、サンプルは真空ラインでトランスファーで仕込むというもの。
「いや、これはお前にはちと難しいんじゃないか」と言っても聞かない。
「これから実験をやる。わからなかったら教えてくれ。OKか?」とその場で言われても無理だよ。
溶媒の蒸留もしたことがなければ、真空ポンプで反応容器を不活性雰囲気にしたこともないのに、それはちょっと荷が重過ぎる反応なんじゃないかな。
こういうのは1から積み重ねるしかない。
彼にそこまで教え込むには、最低2週間はかかるだろう。
まあ、一度失敗していただこうかと思う。
彼の言う「中国流のやり方」でそれが単離できたら認めよう。
ミリモルの不安定化合物の合成だからなあ。ちょっと厳しいだろうなあ。
それがダメなら、まず、シリンジの使い方から一つずつ学んでいってくれ。
今は脱水溶媒も簡単に買えるご時世にはなったが、三本(もしくは二本)針のテクニックも、シリンジも使えないのではどうすることもできないだろう。
真空ラインなんてのはもっと先の話だぞ。
新しい反応を仕込む。
きちんとできるかな。楽しみ。
学生さんが悲鳴と共にガラス器具の入った戸棚を落とした。
300ミリのナスフラスコ4つが壊滅。直しようがない。
説教。愚か者め。
この間苦労してヒビを直して吹きなおしたものなのに。
桐山に修行に行け。
しょうがないので隠し持っていたフラスコのストックをおろす。
かなり昔のガラス工場のストック品だが、新品。
学生さんは虎視眈々と、オレの引き出しの中のガラス器具を狙っている。
ある学生さんは「フィルター借りてます」とオレの実験器具を使っていたが、「液が通らないです。おかしいです」とあきらめた。
・・・それは限外ろ過用のめちゃくちゃ目が細かいフィルターなんだってば。
まずは下積みから入ってくれ。
盗める技術はどんどん盗んでいってくれ。
オレにはみっちり教えるだけの時間がない。
じっくりと Org. Synth. などの実験手法を読んでくれ。
で、思考力や判断力が付いたら、そのときにやっと化合物が微笑んでくれるだろう。
オレが普段使っている装置を使えばうまく行くとか、あるいは知らないことはみんなオレに聞けば教えてもらえると思ったら大間違いだぞ。
そんなにオレは甘くない*1。科学もまたしかり。
*1:手を抜いているんじゃなくて、教える時間があまりない。調べてわかることは調べてから聞きに来てほしいぞ。