水晶と弁当箱

Quartz with chalcopyrite@Ashio mine, Nikko, Tochigi

Printing Nikkor 95mm F2.8A (f = 11)/D80


鉱夫の放出品。やはり in 弁当箱品です。
日本の金属鉱山は露天掘りで掘れるような大規模な鉱床や斜度の小さい鉱脈は珍しく、たいがいは脈が細く斜度が大きいので坑内採掘が多いのです。
で、坑内採掘ですと、くり孔という円筒状の穴を開けて発破(ほとんどはダイナマイト)をいくつか岩盤に仕掛け、爆破させてある程度石を岩盤から外し、それを削岩して脈を追いかけます。
脈を追いかける掘り方を「ヒ押し」*1と呼びます。
発破作業はお昼前か、おやつの前か、帰る間際で、発破後に必ず休み時間が入ります。
理由は二つあって、発破をかけた後の切羽(坑内の最先端部)は粉塵がひどくて作業にならないためと、発破しそこねた不発ダイナマイト(残りダイ)があって危ないためです。
ですので、普通は、お昼ちょっと前に発破を仕掛けてお弁当を食べて、昼食後に切羽に入ります。
このときに、鉱夫は空のお弁当箱を持って切羽に入ります。
きれいな結晶を示す鉱物や鉱石の標本は、どこかで売っぱらってお金やお酒にできるからです。
で、お弁当箱に出たばかりの新鮮な水晶やら黄銅鉱やらを詰めて、何食わぬ顔をして坑外に出てきます。
そのため、鉱夫が横流しした鉱物標本は、およそ弁当箱に詰められるサイズです。
もっと大きい鉱物標本は、会社が絡んでいるもの(分析室から流れてきたものとか)です。


ここの鉱業権者は古河なんですが、この会社は鉱夫の石の持ち出しをとても嫌う会社です。
いまだに鉱業権を放棄していないらしく、廃坑に人が入った話が流れると、今でも厳重注意に来るという情報です。
マジですよマジ。
備前楯に入る人は注意してください。
古河経営より前の江戸時代には鋳銭もしていたのですが、お金の場合はさらに厳しく、ケツの穴に詰めて作業場から出てくるのを防ぐために、渡し木をまたがせるんですよね。
さすがにケツの穴に石を詰めた話はあまり聞きませんね。痔になっちゃう。


というわけで、この標本は40年前に鉱夫の弁当箱に入っていた履歴があるのですが、今になってようやく私の標本箱にやってまいりました。
小さい水晶なのですが、ちょこんと母岩の先端部に束になった熱水チックな水晶が乗り、とても愛らしいのです。
発破で開いたガマの突起にちょこんと鎮座していたのでしょう。
こうやって、少しずつ少しずつ鉱物標本というのは集まっていきます。

*1:ヒは金篇に通ると書くのですが、出てきません。ヒとは鉱脈のことです。