ウルトラ悪路魔チック琢磨

赤外線写真用の有名なこのレンズの件ですが、海野氏のブログには
「ウルトラアクロマチックタクマーはケイ石レンズで、色収差を完璧なまでに補正したレンズである。」
「ウルトラアクロマチックタクマーは珪石レンズである。収差は大変に少ないはずだ。」
とあります。珪石?
石英ガラスは入っていますが、それをケイ石ガラスと呼んだのは見たことありません。
どうもこれは海野氏が、「蛍石」を「けいせき」と読み違え、これがさらに誤変換されているもののようです。
普通、「ほたるいし」と読みます。
海野氏は虫には強いが石にはそれほどでもないようです。


色収差の補正には、部分分散の小さな光学材料を使うと良い場合が多く、しばしば蛍石が用いられます。
蛍石は軟らかく(モース硬度は4)、割れやすく(三方向に完全なへき開があります)、熱膨張率が大きいので、ガラスと違って厄介なところもあります。
で、部分分散比の進みからの組み合わせから、相手として石英ガラスが使われることが多いのです。
どちらかというと石英(水晶)の方がより適当らしいのですが、石英は光学二軸性ですから複屈折があり、これを消すのは容易ではありません。
古い資料には、右水晶−蛍石−左水晶のセットで頑張って複屈折を消している、なんてのもあります。


ウルトラ悪路魔チック琢磨 85mm はメル友が光線追跡までしているのですが、レンズ構成は蛍石石英ガラスのみで
)Qz( (Fl) (Fl) )Qz( (Fl)
の五枚です。なんて贅沢なんでしょう。


なお、蛍石を使うと何でもいいレンズができるかというとそうでもなく、結局は屈折率が低すぎるのと部分分散比から設計は制約され、本質的には暗いレンズにしか向かないようです。