モザイク性 (mosaicity)

写真はこの間のテネシー蛍石です。ひさみさんから買ったもの。
fluorite_mosaicity
で、001面(正六面体の四角の面)の表面構造を撮ったのですが、モザイク性がきれいに出ています。


どんな物質の結晶においても、一見きれいな単結晶に見えるものの、実はよく調べてみるとそうではないことが多いです。
必ず出てくるのがこのモザイク性。
ほんのわずかずつ(数10分−数秒の単位が多い)、結晶方位が揺らいだ微細な単結晶が集合し、結晶を形成しています。


p-ジクロロベンゼンはこうでした。
crystalline_tetris


イメージ的には、こんな感じ。


マクロで見ると単結晶に見えるんですが、やはり粒界があり、厳密には多結晶なのです。
ただし、ほとんど方位は同じに等しいんですけど。
このモザイク性は、結晶構造解析の時のピークの反値幅に露骨に出てきます。ロッキングカーブから一発です。
XPD でも線幅が広くなるのはこいつです。
で、微結晶の方位が揺らいでいる角度を結晶全体平均からみると、結局は正規分布になってますから、ピークがガウシアンの幅を示します。


結晶成長時に不純物が多く入っていたりすると、このモザイクがかなりはっきり出てきます。
モザイクを作る原因がある種の不純物イオンで、ある程度規則性をもってモザイクになったり、連続固溶体を形成しているような場合ですと、結晶面が見事に曲がります。
束沸石の束は、そうやってできます。先がふわっと開いているヤツですね。
特定方位に対してモザイク性が強く出る(何らかの不純物によるところが多い)ものですと、回折実験のピークが変なふうにひしゃげます。
城さんがX線結晶構造解析の結晶を選ぶのに「できうる限り小さい結晶を使え」とおっしゃったのは、このモザイク性の影響をなるべく避けるためでしょう。


この間の結晶が丸みを帯びているのにびっくりしたのはそういう点からです。

ほぼ純物質で、構造解析の R = 3% 台のモザイク性の低い結晶で、再溶解したわけでもないのに結晶が丸っこいってのはちょっとおかしな話です。
この原因は未だに不明。


エントロピー的には、欠陥の皆無な結晶構造ってちょっと不利で、少し不純物が入っていたり、構造が揺らいでいるほうがほんのわずか安定なのです。


完全無欠な人はいません。
どんな人でも欠点はあり、間違いをしでかし、どこかしら足りない部分や乱れた部分があります。
そのほうが自然なのです。
パーフェクトってのは理想論で、結局は机上の空論でしかありませんよ。