t-BuLi

助手の女性が 1.6M のt-BuLi をシリンジで吸って針が外れてかぶって火傷して亡くなるという、いたましい事故あり。
http://www.newsroom.ucla.edu/portal/ucla/lab-assistant-dies-of-injuries-78543.aspx
http://www.chemistry-blog.com/2009/01/20/tert-butyllithium-claims-fellow-chemist-at-ucla/


20 ml ぐらいでしたら、私もガスタイト(ハミルトン社の商標)シリンジで吸う(5 ml を4回に分ける)のですが、60 ml は怖くて吸えないです。
しかもペンタン溶液。
緊張してシリンジを握ると手の体温で膨張して飛び出しますからね。
前にも書きましたが、滴下ロートに必要量の線を引いて、キャヌラーでビンから移しましょう。
こいつだけは、どんなに実験慣れしても、注意した方がいいです。


「どの動作においても、実験が瞬時に中断できる」ってのは安全管理の基本です。
実験中に地震が起こるかもしれませんし、停電になったり呼び出されたりするかもしれないですよ。
実験段階のどの段階を取っても、瞬時に危険回避でき、安全な状態に戻せないと。
キャヌラーを使えば、滴下ロートのコックを閉じるだけ、キャヌラーの先端を液から引き上げるだけ、これで輸送がストップでき、安全が確保できるのです。
過渡的に確保できるアクロバチックな安全は、ヒヤリハットの連続であり、大事故への第一歩。
「危ないな」と思いながら実験するのは危険すぎます。
危険を孕んだ実験をしていてもそのことに気付かないのは最悪です。


有機合成になじみがない人には初耳だと思うのですが、この、t-BuLi(t-ブチルリチウム)という試薬は、ペンタンまたはヘキサン溶液で市販されているんですが、空気と接触しただけで発火し、炎上します。
有機金属化合物には、こういうものがいっぱいあります。
蓋を開けただけ、ちょっとこぼしただけで燃え上がるんです。
これに比べれば、同モル量の金属ナトリウムなんてチョロイもんです。鼻歌歌って扱えます*1
危険性の高い試薬を、いかに安全に使いこなせるか、これが実験化学者の最低限の「力量」なのです。


で、最近になって気付いたのですが、向く人と向かない人にやっぱり分かれちゃうんですね。これわ。
昔は「訓練で誰でも扱えるようになる」と思ってたんです。
ヒューマンエラー係数ってのは、個人差があるんです。ホントに。
にんげんだもの

*1:しかしカリウムを手でちぎるのはやめたほうがいいぞ