背信の科学者たち

背信の科学者たち

背信の科学者たち

再々再読。化学同人で訳書を売ってましたが、版が無くなり、ブルーバックスで売るようになりました。
科学者のアンモラルな行為を洗い出し、その傾向と背景を探り出そうと試みる良書です。
生物学、医学ネタが多いのですが、理工系実験科学にならすべて通用するでしょう。


p287 より

科学者の多くが熱心に研究するのは研究が好きなのであって、出世のはしごを登り、化学のスターの座を目指すためではない。科学には単一の社会的組織が存在するのではなく、むしろ理想的で平等な仲間社会から、縦型に組織された論文生産工場まで幅広くさまざまの組織が存在している。一般化するにはまだ不十分ではあるが、明らかな一つのパターンとして捉えることのできるのは、欺瞞はそのほとんどがアルサブディやバートのような一匹狼か、あるいはまた、論文生産工場におけるスタッフたちによるものだということである。

アルサブディやバートは、科学立身出世主義のなかで、捏造もしくは剽窃により論文を作り上げ、業績を稼ごうとした人たちです。


論文生産工場における欺瞞とは(p197)、以下のような指摘です。

社会学者ジュリアス・A・ロスは、「雇用人調査」と題した広範な調査を行った。それによると次のような結果が出ている。
「公正に行わなければならない重要な仕事であると認識して研究を始めた人びとでさえ、自分たちの仕事に想像力や創造性を持ち込むことをいっさい否定されたり、最終的な結果に対して自分たちがいかなる評価も与えられないなら(いわば他人のやっかいな仕事を肩代わりするために雇われていることに気づいたなら)雇われ人根性に徹するようになる。そして、ひとたびそういう心が根付くと、もはや注意深く、正確に、きちんと仕事しようと思い悩まなくなる。彼らは時間と労力を惜しみ、手抜きをするようになり、報告書には捏造が混じるようになる。」

「そのような行動は異常でも珍しいことでもない。それは、まさに生産ラインで働く人間にみられがちな行為である」


部下のデータ捏造は個人的な問題でなく、それを産み出しやすい環境がある、という指摘です。
指導者は、自分が捏造の芽が出やすい環境を作っていないかどうか、一度考えてみましょう。


よく言われることですが、ボスが実験室に入ってくるなり「実験が計画通りに進んでいるといった良結果を聞きたがるような」指導者もしくは環境では、欺瞞、捏造、剽窃が起こる可能性が非常に高いのです。
それは、作られるべきして作られた捏造データ。
そうならないように、誠実な研究を最重要視するふいんき(なぜか変換されない)作り、良好で人間味があり倫理観を大事にする人間関係の構築が必要となります。


計画した実験が予想通りに進行しないこと*1を頭ごなしに怒る人、言うことが首尾一貫しない人、指導能力や実験遂行能力がないのに結果や業績だけ搾取したがる人は(おそらくこの日記の読者にはいないとは思うのですが)、まずは自分のことを振り返ってみましょう。
反面教師を自称するようになったらおしまいです。

*1:大体ですね、実験する前に実験結果がわかるようなら実験科学じゃないって