手稲石

青い魅惑、手稲石。小さな水晶の晶洞にパラパラ生えてる。
teineite
手稲石(teineite) CuTeO3・2H2O, orth., P212121
北海道札幌市手稲区手稲 手稲鉱山
東京大学総合研究博物館
写真幅 : 6.5 mm
LOMO Mikroplanar 40mmF4.5/Nikon PB-2/Nikon D3


由緒正しき日本の新鉱物、手稲石。吉村豊文先生により、1936年に岩鉱に記載された。
北海道札幌市のはずれの金鉱山で少量産出した、亜テルル酸銅の水和物。
国内では手稲鉱山以外にも、伊豆の河津鉱山、最近では小学生が和歌山で見つけた。
この鉱物には、テルルという、あまり聞き慣れない元素が入っている。
テルルは金銀と相性がよく、低温生成した熱水性含金石英脈に、希に出てくることがある。
このテルルが酸化・加水分解すると、亜テルル酸イオン、テルル酸イオンという(亜硫酸イオン、硫酸イオンのテルルアナログの)陰イオンを形成し、そこいらにいる金属陽イオンと反応して、さまざまな二次鉱物を生じる。
銅を相手にしたのが手稲石。
これ、簡単にオートクレーブでできるらしいので、一度作ってみたい。


金属テルルってこんなの。これはオレが昇華して作ったんだけど。
tellurium
テルルは水晶などのケースと同様に、右もしくは左の原子螺旋配列構造があり、右と左の結晶が存在する。これはセレンも同じ。
この写真からはよくわからない。
対称性は違うんだけど、手稲石も右の結晶と左の結晶が存在する、光学活性な結晶になる。
ただし、目で見て左右がわかる手稲石にお目にかかったことがない。
そもそも手稲石自体非常に珍しいし、結晶形が肉眼ではっきりわかる標本も少ないのだから、ちょっと難しいよね。


テルル酸塩の不思議な用途として、寒天培地の中に少量のカリウム塩を入れる手法がある(Vogel-Johnson 寒天培地)。
ほとんどの細菌には亜テルル酸イオンは苦手で、コロニー生成が抑制されるのだが、ジフテリア菌とか黄色ブドウ球菌などの一部の菌はこの条件下でも殖えることができる。
このとき、菌の代謝物が亜テルル酸塩を還元し、微細な単体テルルの粒子を寒天培地もしくは細菌中に生じさせ、その部位が黒くなる。
カウントしやすくなる、ということらしい。


ヘンなところで亜テルル酸塩は世の役に立っている。


(追記)もう一つ写真を撮ったので、こっちにまとめて貼っておく。
teineite_2
手稲石(teineite) CuTeO3・2H2O, orth., P212121
北海道札幌市手稲区手稲 手稲鉱山
東京大学総合研究博物館
写真幅 : 6.5 mm
LOMO Mikroplanar 40mmF4.5/Nikon PB-2/Nikon D3


上の画角とは別のアングル。深度の送りが荒すぎるんだけど。


黄色−緑色っぽいのはテルル石と、エモンス石だと思う。