桃井柘榴石

愛媛県西条市丹原町鞍瀬鉱山など、数ヶ所の産地で発見記載された、桃井柘榴石です。
柘榴石のAサイトを2価のマンガン、Bサイトを三価のバナジウムで占めた、鮮緑色の柘榴石で、Aサイトがカルシウムである灰バナジン柘榴石とほとんど肉眼で区別が付けられません。
この二者はいずれももともとは、大和鉱山(奄美大島)で吉村先生が発見研究され、灰バナジン柘榴石のほうはタッチの差で外国の記載が先になってしまったということのようです。
こちらのサイトに、大変詳しく、読んで楽しめる詳細な説明がございます。
http://www.shikoku.ne.jp/mineral/kurase-1.htm


鞍瀬鉱山のものは、バナジウムスピネル (Vuorelainenite) の黒い粒に伴うのが桃井柘榴石の可能性が非常に高いようです。
こちらは研磨面。これも bismuth さんの標本です。
桃井柘榴石 (Momoiite)
自然破断面
桃井柘榴石 (Momoiite)
桃井柘榴石(momoiite), Mn3V2(SiO4)3, cub., Ia3d
愛媛県西条市丹原町鞍瀬鉱山
撮影幅 : 16 mm
Nikon Macro Nikkor 65mm F4.5/Nikon PB-6/Nikon D3


大和鉱山の「大和石」とされたバナジウム含有柘榴石は非常に目立ち、東大の渡辺教授らも60年代に気づいたようで、原田石のラベルにその記述が見られます。
harada_3
これは、原田石命名前のラベルですが

A new Sr-V-silicate with rhodonite, rhodochrosite and vanadiferous garnet (6 pieces)

とあります。
「ロードナイト(バラ輝石)、菱マンガン鉱、含バナジウム柘榴石と新しいストロンチウム-バナジウム-ケイ酸塩」ということです。
ストロンチウムバナジウムのケイ酸塩が原田石に相当します。
標本は東大博物館にそのまま残っていますが、これが灰バナジン柘榴石なのか、桃井柘榴石なのかは、私の目ではわかりません。


日本の多くの研究者を悩ませた、マンガン鉱床に産する含バナジウム柘榴石は、去年、名古屋大、北大、愛媛大のグループによって正式に記載論文が受理され、研究に尽力された故・桃井斉(ももいひとし)先生の名を頂き、ようやく落ち着くことができました。


微量サンプルの元素分析は奥が深く、きちんとしたデータは今でも取るのが大変です。
半世紀前は、一仕事だったのです。