最近は、クリスタル・ヒーリングなるものが流行っています。
これなんですか?
根拠もなく、無意味なエセ科学用語の羅列で、眉が唾でベタベタになりそう。
何一つ、思い込みの域から出ていません。
最初から現代科学を否定してかかるなら、学術用語など一つも使わなければいいのに
そういう言葉をちりばめて説明するので、よりうさん臭いです。
これは幸運を呼ぶ壷とほぼ同じじゃないですか。


結晶が他の物質になんらかの影響を与えるのなら、観測できる物理量を提示してほしい。
(エネルギーの単位で温度を示している広告もありました。
温度はエネルギーではありません。)
言い出すときりがないので、細かい話はしませんが、どうもこれは
新手の商法のようで、新しい付加価値を見い出そうと、
いろいろと考えたあげくの成果のようです。根は古そうですが。
ただし、宗教とは違って理論体系ができていないので、言っていることが支離滅裂。
宗教での大前提「神は存在する」と同じく、「結晶は人を癒す」という前提を
考えてみても、納得できないことが多すぎる。


いままでこの種の似非科学に関しては、本物のサイエンティストは
何もコメントしてきませんでした。時間を費やすのも馬鹿らしい程
荒唐無稽だったからです。
学問の分野ではおのずと自浄作用が働き、無意味なデータは淘汰されるように
できているのですが、この種の似非科学の守備範囲は学問ではないために
自浄作用がうまく働かないようです。
科学者の「馬鹿らしくて相手にしない」という態度も、似非科学を大きく増長させる要因の一つに
なってしまったようです。これは科学者の自戒しなければならないところなのでしょうね。


クリスタルヒーリングを眉唾だと考えている鉱物学者は、これについてコメントを
求められたら、自分の知っている知識と経験の限り、これを否定するべきなのではないでしょうか。
それでつぶれてしまうようなブームならそれでよし、そうでないなら、
必ず学術雑誌に載るような根拠のあるデータと共に、再浮上してくるでしょう。
というのは、相手がリチウムイオン*1とか、結晶成長とかの科学の言葉遊びの
セールスをしているからです。学問の畑の疑問は学問で返すのが筋です。
オカルト畑の商売なら、最初からオカルトっぽくしてほしい。


石を売っている立場の人間も、そのようなブームに乗じて、そういう
キャッチ*2で石を売らないで欲しいです。もし自分が信じていないならば。
思い込みで言うならまだ許せますが、信じてもいないのにその類いのコピーを
使うなんでずるいじゃないですか。「相手の判断にまかせる」なんて逃げは
聞きませんからね。


よくある騙し文句について


「国際鉱物エネルギー学会のコメント」
→学会は山岳会と同じで、勝手に自分で名前をつけることができます。
私一人でも、世界クリスタルエネルギー評価学会を名乗りあげることができます。


「特許出願中」
→どんなにうさん臭いデータでも、特許出願はできます。


「国際結晶学会で発表し、大きな反響を得た」
→年会費と登録料さえ払えば、大部分の学会や教会では口頭(もしくはポスター発表)は
できます。反響は別の話です。みんなが納得できるデータがあれば、それで議論が
できますし、そうでなければ誰も相手にしないでしょう。
現在の科学では測定の難しい物理量を持っていても、そういうヒーリングの
効果が本当にあれば、きちんとしたデータはとれるはずです。
もちろんブランク*3も取って、標準偏差を超えた(つまり確率論でない)データです。


結晶は不思議の世界です。規則正しい分子構造が結晶の大きな特徴の一つですが
それだけではないのです(欠陥の皆無な結晶なぞあり得ない)。
成長の条件や構造の乱れによって結晶は大きく外見をかえます。
ヒーリングより遥かに深遠で美しい世界がそこにあります。
結晶学が理工学よりも「アートっぽい」と表現されるのはそのためです。
今は結晶構造データを三次元でくるくるまわせるようなソフトウェアが
フリーで手に入るご時世なのですから、「空間の情報を収集する能力を持つ」といった
怪しい石の売り文句に惑わされることなく、群*4や相律*5や分子構造の妙にも感嘆して欲しいです。

*1:よく smoky quartz の売り文句で出てきます。

*2:ダウクリスタルとか、レコードキーパーとか、そういうやつです

*3:空(くう)試験のこと、試料のない状態でのバックグラウンドデータ

*4:空間内の対称を表現する数学的手法

*5:多成分系混合物が条件によってどのような組成構造を取るかを表現する化学的手法