怪談
あんまり人の日記のコメント欄に怪談を書くのも趣味がよくないので、自分の日記に。
よく山の中で寝ていると、光り物を見る。
最近はテント泊で山奥に潜る気力もなくなったが、以前はずいぶん山深くまで入った。
山の夜はとても暗い。穴の中ほどじゃないけど。
ライトの電池がもったいないので、日が暮れると同時に寝てしまうのだが、夜に小用を足しに外に出ると、沢の向こうに光る何かが見える。
そこには道もなければ、人がいるはずもない。
でも、なにか光っている。白い玉。
ずっと見ていると、少しずつ動いている。
光る昆虫や植物もあるようだが、もっと強い光だ。
あれはいったい何なのだろう?
たしか昭和60−62年ごろだったと思う。ネバ沢鉱山で怖い思いをした。
ネバ沢鉱山は住友経営の銀鉱山だが、チャンピオンベインの品位と規模が良好*1で、昭和の終わりまで採掘していた。
最後の方は含金銀珪酸鉱を出していた。
そのネバ沢も、採算割れと鉱量枯渇で閉山する日が来た。
閉山して事務所から人がいなくなってすぐ、ネバ沢鉱山に行って採集した。
その頃は今ほど鉱物採集の人口も多くなく、人っ子一人いない。
車も自分の乗ってきたものだけ*2。
すべてが操業時のままだった。
ボーリングコアも箱に入ってそのまま。
坑口もそのままで、せっかくだから主脈を確認してやろうじゃないか、と、ライトを付けて坑道に入った。
金銀鉱山だからガスのたまる可能性はほとんどない。
縦坑だけ気をつければいいんだ、と。
事務所裏のトロッコレール沿いにスノーシェッドをくぐり、こぼれ落ちた鉱石をチェックしながら、深い闇の坑道をとぼとぼ歩いた。
100mほど歩いて、さらに坑道の奥からライトの光が見える。
あれ、ほかに誰かいるんだな、と考えた。
明らかにライトの光。
あっち向きこっち向きしている。
もうちょっと進んで、気が付いた。
ライトの位置が、明らかに異常に高い。
2m以上の高さだ。
この鉱山の地並の坑道は高さが2.5mぐらいあるのだが、天井いっぱいいっぱいぐらいの高さに、ピンクの光がふわりふわり。
足音も聞こえない。
光はこちらに近づいてくる。
あ、これはまずい、と考え、Uターンして引き返した。
入り口まで出て、明るい昼の光に安堵。
しばらく事務所の横のボーリングコアを見たり、こぼれ落ちた鉱石の中の銀鉱物を探していたが、坑口からは誰も出てこない。
地元の人にあとで聞いてみたら、「あー、あそこは落盤事故で何人か死んでるからねー」とのこと。
いまだに腑に落ちない。
オレは科学が本業だが、このあたり、人を恐怖させる何かがある。
知人の某教授は、よく見るらしい。生きてない人を。
オレが「幽霊を信じるんですか?」と聞くと「信じるも信じないも、見えるんだよ」と言う。
自分の錯覚や幻覚によって見える気がするのだろうか。
それとも、そこに何かあり、そこから出た(もしくは反射した)光が網膜に像を結ぶのだろうか。
後者だとしたら、そのエネルギーはどこから来るのだろうか。
熱力学の法則は成り立たないのだろうか。
と、いろいろと考えてしまう。
オヤジは超現実主義者だが、遭難救助をかなり長い間していたので、何度か不思議な体験をしているようだ。
オレがまだガキの頃、白黒写真を見て、いぶかしがっていた。
聞いてみると「写るはずのない人がいる」んだそうだ。
見てみたが、何の違和感もない。そのぐらい鮮明に写っていた。
ということは、像を結ぶことができるってことだから、やはりそこに何かが「存在」するってことなんだろうな。
何が存在するのだろう?