ガラス細工法 基礎と実際 飯田武夫 広川書店

この本は残念なことに絶版になってしまった。
もっとも初心者に向いていて、しかもフラスコのヒビを直す方法など、実用度が高い。
この本の一部の内容が必要になる機会があったので、引用。

 ガラスの破片は槍状、貝殻状、その他いろいろあるが、いずれも破片の先端は鋭い刃で皮膚などを切ることは容易である。ガラスの刃は剃刀より遥かに鋭いものである。電子顕微鏡の標本薄片を作るのに剃刀で切ったのでは表面が粗で、鋸で材木を挽いたときのように多くの線が現われて駄目であるが、ガラスの破片で切れば線一本も見えないそうである。そんなに鋭利なガラスの破片で生身を切れば骨髄まで到達する。突き刺した場合も同じである。負傷した場合は痛さや出血に驚かないで、傷口を上下左右から押してみてガラスの破片が残留していないかをまず確かめる。残っていれば、特定の方向から押したときに強い痛みを感じる。破片が残っている場合は医師に見せて抜き取ってもらわねばならぬが、どちらから押しても同じ痛さの場合は破片は残っていないのだから、消毒して包帯しておけばよい。
 毛細管が手に刺さった場合は痛さをこらえて虫眼鏡で皮膚の上に出ている毛細管の方向をよく確かめてから、毛抜で軽く挟んで刺った方向に引き抜くことが大切である。もし慌てて方向かまわず引き抜くと毛細管が折れて皮下に残ることになる。10年ぐらい、チクリと痛いことを経験しなければならぬ破目になる。私も15年ぐらい前に右手の中指の先に毛細管を突き刺して折れてしまったので、今でも襖を閉めるとき中指の先がチクリと痛い。初期はかなり痛かったが、近頃では毛細管を脂肪がとりまいたのか、ひどい痛さは感じなくなった。実習で女子学生が足に毛細管(径1.5mm)を10cmも突き刺して折れてしまい、除去に大変困難したことがある。実験台の上に芥入れ土瓶があるのだが、その瓶の中に屑ガラスを投入することになっていた。その瓶から 1.5 mm 径の毛細管が 10〜20 cm 外側を向いて突き出ていたのだ。運悪く素足で近寄ったので膝関節の 10 cm 下に突き刺さって折れてしまった。痛くて歩けないというので病院に運んで、X線で調べたところ、脛の二本の骨の中間を通り、筋肉を動かしたので毛細管が二本に折れたことが判明した。医者は数時間かかって、二本の断片を取り出してくれたが、女子学生も2週間も入院して脛に大きい切開の傷を残した。この事件に懲りて、瓶からガラス片が突き出ているとスタンドの下で鉄脚で砕いて回り危険予防に心掛けるようになった。女子学生には実験室ではズボンを用いる様にすすめたが、実行してくれる人は少なかった。素足で実験室を歩むのは危険であると説いたのだが、駄目だった。女の子はズボンを付けるのを嫌がった。


上記の記述だけで、この本がいかに優れた実用書であるかがおわかりいただけるかと思う。
広川さんにもう一回刷ってもらいたいなあ。


この本によれば、上達の早い学生さんは、6日のガラス細工の講習後、30日の毎日の練習できれいな(実用に耐える)リービッヒ冷却管が作れるそうである。
きれいでないのは学生時代に作ったことがあるが、今は腕がおそろしくなまったであろうから、あまり確認したくない。