接待登山
学生さんとヨセフとボスと山に行く。なぜか飛び入りで後輩も。
朝早く起きて学校に集合。
だが、数人が遅刻して来ない。彼らを待っていたら30分ほど遅くなった。
車でしばらく移動し、駐車場に停める。
うーん。ピチピチのジーンズの人が何人かいるなあ。
疲れるからジーンズはやめておけって言ったんだけどな*1。
学生さんに地図とハンディGPSを渡して、先頭を歩かせる。
ルートを間違えるということはなさそうだが、念のため。
ルートファインディングとペースメイキングの大切さを身に付けてもらいたいし。
ほとんどの学生さんは2.5万の地形図を読図したことがないようだ。
先頭を学生さんに任せ、オレはしんがり。
脱落者を拾っていく仕事。
想像通り、すぐに脱落者が出る。
やはりピチピチのジーンズで、基礎体力不足の女の子。
肩で息していたが、胃液を吐いた。
最初がちょっと急登で、他の人にせっつかれるものだから、ペースを乱したのだろう。
先頭のペースがちょっと速いので落とすように言うが、すぐにペースが上がってしまう。
一定の負荷で登るのは、訓練しないとダメなのかも。
とりあえず彼女を休ませ、呼吸を深く取らせる。
落ち着いたところで彼女の荷物を預かり、再度登りはじめる。
急登は、登りに専念するから疲れるのだ。
彼女と二人でペースを落とし、植物相、地形、地質、動物などの話をしながらゆっくり上がる。
ガマズミ、ヤシオツツジ、レンゲツツジが良い。
ヤマザクラはつい数日前に散っている。
登山は研究によく似ている。
道を間違えないように、目標まで到達しなければならない。
途中、いろいろの面白いものを発見し、新しいルートを見出したりできる。
目標の山頂とは違うところのほうに気が移ってしまったり。
目的の山頂に到達するのにも、慌てて登って途中で息の切れる人、のんびりマイペースな人。他の人とワイワイ騒ぎながらが好きな人。途中で引き返したくなってしまう人。
山を登らせると、学生にどういう研究テーマを与えたらいいのかがよくわかる。
そしてグループの指揮系統もはっきりわかる。
このグループ、誰もリーダーシップを取ろうとしない。
学生さんは役割分担の仕事が大の苦手らしい。
そして何人か暴走しやすい人、時間を守らない人、想像力の欠如している人がいる。
逆に言えば、仲は良い。縦の関係はあまりない。
責任はみんなで分け合うものらしい。
どういう研究が各個人にあっているのか、少しずつ考えながら最後尾から学生を観察。
山頂付近の外輪山は、偽のピークが多い。
うかつなことに、それに気づかず、山頂より200m南のピークで大休止してしまった。
山頂に三角点が無いのに気づき、慌てて真の山頂に向かう。
GPSと地形図は学生さんに預けっぱなしだったので、わからなかった。
ここの山頂は落雷のために岩塊が磁化されていて、方位磁針の効きが悪いというのを示そうと思っていたのだが、残念なことに磁石を置いてきてしまった。
山の登り方における体重移動もそうだが、地形図上での現在地のナビゲーションも、かなり訓練が必要らしい。
標高差、方角、地形などのあらゆる外部情報を地形図と照合し、なるべく矛盾の無い現在地を判定することが要求される。
オレは普段からそんなことばかりしているのであまり気にも留めなかったのだが、初めての人にはこれはすごく難しいことらしい。
まず、等高線の情報が読めない。
地形図のある点から北に進むと、登っているのか下っているのかが判断できないのだ!
こういうものは慣れが必要なんだな、と反省。
オレはガキの頃から地形図を読んでいるので、呼吸をするのと同じように意識せずにアップダウンが判別できるが、それを他人に求めてはいけない。
読める人は、一枚の地図からものすごい量の情報を引き出すことができる。
さて、あとは下るだけ。
下りは登りよりはるかに膝に負担がかかるので、ゆっくり行かせる。
ヨセフは先に行きたいという。
ここの下りも急なので、学生さんにヨセフの先導をさせ、ゆっくり行ってもらう。
オレは件の女子学生のペースを見ながら、やはりしんがり。
しばらく歩いていたら、携帯電話に着信が。
中国人ぽすどくのアパートを紹介してもらった不動産屋からだ。
まだ今月分の家賃が振り込まれてないという。
「それって常識的にありえない話です」と説教される。
数日ぐらいいいじゃねーかと思ったが、契約だし、外人を受け入れてもらえるだけでもありがたいので、平謝りに謝りながらとことこ山を下りる。
どこにいても呼び出されてしまうのが携帯電話の最大の欠点だ。
亜高山帯を下りてくると、広葉樹林に入る。
たまに大きなシオジの木が混じっているのがいい感じ。
先頭はだいぶ先に行ってるらしい。
先頭から引き離されてしまった第2グループの学生が、道を間違えて違う方向に下りている。
踏みあとが見えてないもののようだ。
赤いテープも立ち木に巻いてあるんだけど。
彼は理屈は得意だが、現場では総合的な判断が苦手。実験と同じだ。
それについていって行ってしまった学生さんを「間違ってるぞー」と呼び戻す。
岩脈がどーたらという話をしながら下りていたら、再び携帯電話に着信。
先頭近くを歩いていたヨセフが怪我したらしい。傷が深いとのこと。
絆創膏と消毒液ぐらいしか持ってないが、とりあえず先頭まで行ってみる。
ぴょんぴょん飛んで下りると、かなり前に先頭の一団がいた。
ヨセフは転んで近くの石で手を切ったようだ。血は止まっている。傷は2cm程度だが、やや深い。
消毒はしているようなので、そのまま下りてもらう。
オレが最後尾から飛んで下りても10分以上かかったので、先頭集団はよほど飛ばしたものらしい。
それについていこうとヨセフが急いで、転んだのだろう。
山の事故はいろいろなケースがあるが、登りはじめに起こるのは体調不良と準備不足を原因とし、最後に起こるのが慢心と疲労を原因とすることが多い。
そして、後者のほうが頻度が高い。
早く行こうとしたヨセフにも責任はあるが、ペースメーカーの学生さんにも問題がある。
子供の頃からオヤジに「先頭が一番経験のある人が入り、次は最後尾が重要」と教えられていたのだが、体調の悪い学生に気を取られて、先頭のペースアップにブレーキがかけられなかった。
オレが先頭だったほうが良かったんだな。反省。
びっくりするほどの怪我ではないので、とりあえず車道まで下り、車を取りに行く。
相当疲れている人が全体の四分の一ぐらい。
登りに弱い後輩がまだピンピンしている(!)ので、若い人の体力不足がはっきりとれる。
車の中にドレッシング(大きな応急用絆創膏)が積んであったのだが、掃除でちょうど下ろしてしまい、普通のバンドエイドしかない。
しまった!
まあ、本人は蕎麦を食べに行くと言ってるので、それほど神経質にならずともいいか。
救急病院の位置もわかったので、ちょっと下の蕎麦屋で解散する。
別の店で蕎麦食って、雑談しながら帰る。
学校に戻り、学生がいないのをこれ幸いと自分の実験をする。
くたびれたー。
接待登山はもう嫌だ。
何を言っても大丈夫なグループで、5人までがいいや。
それなら苦手なリーダーシップを取らなくてもいいし。
いろいろ観察することができたので、情報収集ができたのは良かった。
あとで反省会だな。
*1:膝が上がらないので山登りには不向き。濡れると最悪。