誰だよ間違えたの

明礬(ミョウバン, alum)という物質があります。
普通、明礬といえばカリウムアルミニウムミョウバンのことで、硫酸アルミニウムカリウム12水和物という硫酸塩の複塩です。これは、洗眼に使ったり、あるいは媒染剤に使われたりと、しばしば生活の中で見かけることがあります。
この二種の陽イオンは他のイオンで置換することが可能であり、アンモニウムイオンでカリウムを置き換えたのはアンモンミョウバン、アルミニウムをクロムで置き換えたものがクロムミョウバンです。
組み合わせによりミョウバングループという多種の硫酸塩化合物がカテゴリー分けされます。
このように、「礬」という字は本来硫酸塩に対して当てられるものでした。
明礬は「明」るい硫酸塩、つまり無色透明なミョウバンの結晶を表現したのでしょう。
同様な用法に緑礬(リョクバン、ロウハ)があります。これは硫酸鉄7水和物のことです。
硫酸銅5水和物は胆礬(タンバン、タンパン、タンパ)と呼ばれました。
あまりなじみがありませんが、硫酸亜鉛の水和物は皓礬(コウバン)という別名があります。


ところが、どこで誰が間違えたのかわかりませんが、「礬」の字がいつからかアルミニウム塩のことを示すようになってしまいました。
おそらくもっともポピュラーな「礬」であるカリミョウバンが、多量のアルミニウムを主成分とするところから勘違いされたのでしょう。
礬土頁岩(バンドケツガン)、鉄礬柘榴石(テツバンザクロイシ)などの間違いが目立ちます。
よく、製紙関係では硫酸アルミニウムを用いますが、これはしばしば「礬土」「硫酸礬土」と呼ばれます。
礬はもともと硫酸塩のことですから、「硫酸礬土」というのはとてもへんてこな名前です。
「頭痛が痛い」というのと同じです。
これを最初に間違えて使いはじめたのは誰なんでしょう?
探していますが、なかなか資料にあたりません。
つきとめてやりたいのですが、日本の鉱物学者なのか、中国の化学者なのか、見当もつかない状況です。


というわけで、実は柘榴石の和名はあまり好きではありません。灰礬柘榴石(カイバンザクロイシ)というより、学名の grossular の方が使っていて違和感がありません。
なお、英語ではミョウバンのことは alum といい、アルミニウム(aluminum) という名前はここから取られていますので、混乱は無いようです。